「顔が知られているとアルバイトもできないのです。結局、その方は後に離婚したと聞きました」
浮き沈みの激しい芸能界。仕事がなく、暇なときでも「副業・アルバイト」ができないという制約も彼ら彼女らを追い詰めていることをご存知だろうか? ここでは商慣行として“副業禁止”が長く続く「芸能界の危うさ」を、元俳優で現在は「元芸能人のセカンドキャリア」を支援する松永博史さんに伺った。(全2回の2回目/最初から読む)
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「松永さん、我々の仕事を潰すつもり?」
――松永さんの事業に対して、芸能事務所の関係者から反発の声もあったのでしょうか。
松永 僕が「仕事が1ヶ月に1回もないような芸能人は生活が大変なので、社会保障がしっかりした会社で副業をするのはいかがですか」と芸能事務所にお電話していたところ、ある方から「松永さん、我々の仕事を潰すつもり?」「うちのタレントをやめさせたいの?」と言われて困ったことがありました。僕はただ、役者さんの未来も含めて生活を守っていくためには、副業ができるようにすることが大切だと思っているのです。
――芸能人が副業をするのは難しいのでしょうか。
松永 副業を許可していない芸能事務所が多いんです。CMに出演しているとスポンサーとの契約で副業が禁止されることもあります。それでも事務所側は、100人の所属タレントが、1ヶ月に1人1万円稼いできてくれたら100万円の売上になるので構わないのです。しかし、一人ひとりは1ヶ月に1万円では食べていけません。その状態で副業を禁止されたらどうしようもない。舞台のお仕事では決まった報酬がないケースもあり、「お客さんを1人呼んだら500円」ということもあります。そのために借金をしたりギャンブルでお金を増やして食いつなごうとする人もいます。
目先のお金を稼ぐために、若い人が「ギャラ飲み」をすることもあります。そうした飲み会に参加して、アクシデントに発展したというケースもよく聞きました。
以前よりも寛容になりつつありますが、副業ができないために経済的に困窮し、家庭内で揉めるというケースもあります。ある番組の打ち上げでは、有名俳優の奥様が打ちひしがれた様子で、「旦那の仕事がない、もうローンが払えない」と嘆いていたことがありました。顔が知られているとアルバイトもできないのです。結局、その方は後に離婚したと聞きました。
名の知れた芸能人だからといって、生活が安泰というわけでもないんです。いきなり無職同然になる可能性もあるし、労働時間に見合っていない出演料で働くこともあります。
――松永さんは会社勤めをするようになったことで、芸能界での経験が生かされていると感じますか?