デビュー作『ナースの卯月に視えるもの』(文春文庫)が大ヒットし、快進撃を続ける作家・秋谷りんこさん。本作はシリーズ化が決定し、11月6日に第2巻『ナースの卯月に視えるもの2 絆をつなぐ』が発売となりました。10年以上の病棟勤務を経て、作家に転身した秋谷さんですが、今に至るまでには、どん底の日々があったといいます。
小児科はつらすぎた
――『ナースの卯月に視えるもの』のシリーズ化が決定し、第2巻『ナースの卯月に視えるもの2 絆をつなぐ』が発売されました! 秋谷さんは、同作がnote主催の創作大賞2023で「別冊文藝春秋賞」を受賞し、デビュー。本シリーズは、看護師として働いていた経験をもとに書かれたんですよね。
秋谷 13年間、精神科の看護師として病棟に勤務していました。閉鎖病棟に長くいて、急性期の患者さんを担当していました。『ナースの卯月に視えるもの』の舞台は精神科ではなく、長期療養型病棟という完治の望めない患者さんが集う科ですが、私が看護師時代に経験したことが色濃く出ている作品だと思います。
――主人公の看護師・卯月咲笑(うづき・さえ)は、患者が死を意識したときに現れる“思い残し”が視える、という不思議な能力を持っています。
秋谷 “思い残し”の設定は、看護学生時代の実習での経験がもとになっています。死と隣り合わせの仕事であると頭では分かっていたものの、いざ患者さんのご遺体を目の前にしたときの衝撃は、今でも忘れられません。実習時に担当した患者さんは、前日までお元気だったのに、翌朝出勤すると亡くなっていて……。最期の瞬間、患者さんはどんなことを考えていたのか、私は患者さんにきちんと寄り添えていたのか、今でも自問自答を繰り返しています。そんな私の思いが、『ナースの卯月に視えるもの』シリーズには込められています。
――そもそもなぜ精神科を選ばれたのでしょう?
秋谷 私は子どもが大好きなので、もともとは小児科志望だったんです。でも、実習が本当に辛くて……。子どもは、小さな体で本当に一生懸命に病気と戦います。その健気さと向き合う医師、看護師にはとても強い覚悟と精神力が必要なんです。例えば、注射や痛みの伴う検査が嫌で泣いている子どもに対しては、「泣いちゃダメ」とは決して言いません。「いいんだよ、いっぱい泣いていいんだよ、でも手は動かさないでいられるかな?」と真正面から子どもと向き合って、心を通わせて接することができなければ務まらない。酸素マスクをつけてプレイルームで楽しそうに遊ぶ子どもに、理由を説明しながら「一回休もうね」と言わなくてはならない。子どもが大好きだからこそ、私にはできない、できる人に任せよう、と思いました。
そして、もともと心理学やカウンセリングに興味があったので、精神科に切り替えました。