落選したときに自分を保つには
――すごいバイタリティですよね。落選したときは、どうやって次に向けて気持ちを高めていましたか?
秋谷 小説以外にも、毎月、公募にエッセイやショートショートを出していたんです。すると、落ちてもすぐに次の結果待ちがあるんですよ(笑)。長篇小説に関しては、公募に出したらすぐに次の作品を書き始めていました。落ちても、「今書いている作品は最高だから!」という気持ちになれるんです。書き続けて、出し続ける、を繰り返していました。
――小説教室に通ったり、書き方について本などで勉強したりされましたか。
秋谷 どこにも通わず、本も読まず、基本的には自己流でした。ただ、作家の新川帆立先生が登壇されていたnoteのイベント「ミステリー小説の書き方」はすごく勉強になって、めちゃくちゃメモを取りました。ちょうど『ナースの卯月に視えるもの』を書いている最中のイベントだったので、本当にありがたかったです。あとは、基本的に講評をくれる公募を選んで出していましたね。講評を読み込んで、さらに受賞作と落選した自分の応募作を読み比べて……ひたすら地道に書き続けていました。
――そして見事に2023年、『ナースの卯月に視えるもの』が創作大賞で「別冊文藝春秋賞」を受賞しました。
秋谷 前年の2022年の創作大賞は、新しい作品を書く時間がなかったので、他の公募に出して落選した作品を出していました。そしたら中間選考まで残って。創作大賞と私の作品は相性が悪くないのかもな、と翌年はかなり気合いを入れて臨みました。『卯月』以外に長篇を2作品出しました。
――2024年5月に受賞作『ナースの卯月に視えるもの』が刊行されると、大反響を呼びました。デビュー前と後で、書くことへの姿勢に変化はありますか?
秋谷 書くことに関しては、投稿時代と変わらず、ずっと楽しいです。アイデア出し、プロット作り、執筆、改稿、ゲラ作業、どれも面白いです。ただ、小説の読み方は変わった気がします。特に医療ものの小説は、つい意識して読んでしまいますね(笑)。デビュー直後は、私にこんな表現書けるかな? とか、弱気になることもありました。でも、編集者さんにポロッとこぼしたら、「まあ、色んな書き方がありますからね」とめっちゃサラッと流されて(笑)、逆に「あ、たしかに」とすっきりして、自分の作品に集中するようになりました。
――デビュー後は、どのくらい本を読まれているんですか?
秋谷 もともと年間100冊くらいで、デビュー後は少し増えました。今年は現時点で120冊くらいです。読むジャンルの幅が広がりました。これまでノンフィクションは読んでこなかったのですが、リアルを知っているからこそ、小説で書けることが広がっていくのかな、と思って、意識して読むようになりました。最近だと、『女友だちの賞味期限』(ジェニー オフィル、 エリッサシャッペル/プレジデント社)、『安全に狂う方法』(赤坂真理/医学書院)、『がん征服』(下山進/新潮社)が面白かったです。ノンフィクションでしか味わえない凄味を感じました。
――小説のアイデアを見つけるために意識してやっていることはありますか?
秋谷 小説を書き始めてから、アイデアノートをずっと付けています。小説になるとは限らないけれど、面白いと思ったことや、思い浮かんだことを、バーッと書いています。最近だと……「月の表面には地名がついている。ロマンがある!」って書いてますね。あとは、散歩に行くとき、この間にひとネタ見つけるぞ、と意気込んで歩いています(笑)。