若山富三郎主演「子連れ狼」シリーズの大ヒットを受けて、一九七〇年代前半の東宝は小池一夫劇画の映画化に活路を見出す。勝新太郎主演「御用牙」シリーズに、過去二回こちらで紹介した「高校生無頼控」シリーズ、そして今回取り上げる『鬼輪番』。
学生時代に浅草東宝のオールナイトで観て衝撃を受けた一本なのだが、残念ながら長いことソフト化がされていなかった。そのため、他の小池原作映画のように本連載で取り上げることができないでいた。ところが、いつの間にかプライムビデオで配信が始まっていたのだ。いい時代だ。
江戸幕府の隠密たちの活躍が描かれており、タイトルは実際に存在した組織「お庭番」からとったものである。
物語は、その育成から始まる。幼少期から山奥で厳しい特訓を経てきた彼らは、子どもながらに隠密たちを倒せる腕前と非情さを身につけていた。だが一方で、少しのミスでも容赦なく粛清され、訓練でも多くが次々と命を落とす。
冒頭から過酷な状況が次々と映し出される上に、教育係の鬼面の下から聞こえてくる声を森山周一郎が当てていて、恐ろしいことこの上ない。
最終試験を突破した五人の青年たち(近藤正臣、水谷豊、峰岸徹、荒牧啓子、高峰圭二)は幕府の命で紀州に潜入することに。武器蔵を爆破して謀反の企みを防ぐためだ。が、そこには「鬼輪狩り」の異名を持つ目付・横笛将監(佐藤慶)が待ち受けていた。
この将監の「狩り」方が強烈。まず疑わしい者たちを捕え、真っ暗な蔵に押し込める。進む先はよく見えないが、壁や床には無数の刃が突き立つ。しかも、背後からは毒の煙が迫るため、進むしかない。だが、刃を上手く避けると、忍者である証になってしまう。拷問以上に残酷な手法だ。
既に潜入している忍者・玄海(岸田森)の機転で危機を突破するも、将監は全てお見通し。最終的に彼らは灼熱の噴火口に落とされてしまう。這い上がって逃げようとするも、鉄砲隊が待ち受ける。
将監の目的は処刑ではなく、精神的に追い詰め、屈服させることだった。「逃げて死を選ぶもよし、とどまって死を待つもよし。好きにするがよい!」とサディスティックに嘲笑う冷徹な眼差しは、まさに佐藤慶の真骨頂である。
終盤は太陽と地熱と飢えで主人公たちが弱っていく芝居が延々と続く。その気だるい雰囲気により、観ている側も彼らの生き地獄を追体験している気になってきた――。
本作は、東宝の小池映画化作品の中で唯一シリーズ化されなかった。だが、それがあまりに惜しく思えるほど、全編がインパクトに満ちている。
