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中村 元
2017/07/09

北の大地の水族館 山の水族館「低予算、極寒……弱点を強みに」――水族館哲学3

水族館プロデューサー・中村元の『水族館哲学』から紹介します

『水族館哲学 人生が変わる30館』(中村元著)

 水族館のすべてを知り尽くす敏腕プロデューサーが、全国の水族館から30館を独自の哲学で選んだ『水族館哲学 人生が変わる30館』が刊行されました。その土地でしか見られない生物がいたり、観客とスタッフが近かったりと、どの水族館も、独特の魅力にあふれています。今回紹介する北海道北見市の「北の大地の水族館 山の水族館」は成り立ちがユニーク。水族館としてはきびしい条件ばかりでしたが、逆転の発想でみごとに甦りました。

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極小予算、極寒という逆境

 北海道のど真ん中の山裾、寂れて閑散とした温泉街、車も通らない道、冬はマイナス20度の極寒、旧水族館の入館者は年間2万人弱、おまけに建設費は極小予算――。そんな状況で水族館を建て替えようとすること自体が無謀でしかあり得ないのだが、やってしまった。しかも集客できる水族館にする約束まで付け加えて、ついに実現した。 

 世の中には、どう考えても実現不可能としか思えない状況というのはいくらでもある。不可能の壁が突然現れたり、不可能の壁の前にいきなり連れてこられるという理不尽が起こることもある。

滝壺を下から見上げる世界初の展示は、水流とオショロコマの泳ぎによって躍動感、清涼感、浮遊感の揃った水塊だ。

 気付けば結局その無謀な計画を、「ボランティアでプロデュースする」と言ってしまっていた。それはおそらく、あまりにも弱点だらけの環境と水族館計画が、ちょっと魅力的にさえ見えてしまったからだと思う。 

 多くのみなさんが、弱点は不利なことだと信じているだろう。だから、弱点は隠すか無かったことにしてしまう。そして「立派な」人たちは、弱点を克服しようとする。 

 これは、学校の勉強がバランスの取れた優秀さを求めてきたことによる、ちょっとした弊害だろう。「弱い科目を無くしなさい!」というアレだ。 

 しかし、弱点を克服するにはたいへんな努力が必要だ。もちろん、それをやり遂げる努力家の人たちも少なくはない。そして、羨ましいことに、弱点を認めて平気な人もわずかにいる。学校教育の枠には収まらなかった天才肌の人だ。天才的に何かが秀でているから、弱点などチャームポイントにしかならない。

屋外に穴を掘っただけの水槽ながら、よそにはない流れる川を再現した「四季の水槽」。背景の植物は、地元のボランティアが植えた。
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