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【阪神】若虎の中で一人だけ成績を向上させている中谷将大

文春野球コラム ペナントレース2017

2017/08/04
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 昨年、金本阪神が掲げていた若手育成路線、いわゆる『超変革』の中心は打の高山俊であり原口文仁であり北條史也であり、さらに投の岩貞祐太だった。だからこそ、今年はこの4人のさらなる飛躍が期待されており、2017年の球団カレンダーにも掲載されるようになった。また、阪神のスポンサーとして知られる家電量販店・JoshinのCM(主に関西圏で放送)にも、今年は上本博紀と藤浪晋太郎に並んで新たに岩貞が出演するようになった。一部では「JoshinのCMに起用されると活躍できない」というジンクスも囁かれているが、それはさておき、とにかく岩貞に大きな期待がかかっていたことは確かだ。

注目された若手が翌年に成績を落とす――近年の阪神に目立つパターン

 ところが、いざ2017年度のプロ野球が開幕すると、その4人がそろいもそろって低空飛行を続けた。ここまでの時点では4人とも昨季を下回る成績しか残せておらず、若手の成長という意味では停滞感が否めない。前年に飛躍のきっかけをつかんで注目された若手選手が、その翌年に成績を落とす。これは近年の阪神に多く見られたパターンである。

 たとえば2007年、当時プロ5年目だった林威助は自己最多の115試合に出場し、惜しくも規定打席に4足りなかったものの、打率.292、本塁打15の好成績を残した。これによって林は左の大砲としておおいに将来を期待されたものの、その翌年以降は故障などに悩まされ、結局07年の成績を一度も超えることなく、13年限りで戦力外通告を受けた。

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 また、同じく07年には右の大砲候補と目されていた高卒6年目の桜井広大がシーズン途中で初めて一軍切符をつかみ、91試合の出場で打率.281、本塁打9の成績を残した。しかし、そんな桜井も故障に悩まされ、翌年はわずか25試合の出場。そのまた翌年の09年には自己最多の103試合に出場し、初の二桁本塁打(12本)を記録するなど、再浮上するかと思われたが、以降はまたもや故障に苦しむなどして、成績が低下。結局、09年の12本塁打がキャリアハイのまま、11年限りで戦力外となった。

 もちろん、故障という不運な要素はあるにせよ、どういうわけか近年の若虎にはこのパターンが非常に目立つ。成長の折れ線グラフが上に上に伸びていかないのだ。

若虎の中で一人だけ成績を向上させている中谷将大

 そんな中、今季の阪神には一人だけ例外がいる。高卒7年目の24歳、中谷将大だ。
中谷といえば身長187センチ、89キロ(公称)という立派な体格にふさわしい強肩と長打力が売りの選手で、プロ入り後すぐに捕手から外野手に転向した。手足が長く、遠目に見ると背格好がなんとなく似ていることもあってか、「新庄剛志二世」なんて呼ばれたこともあった。現在は赤いリストバンドを着けているため、余計に新庄を思い出す。

8月3日現在、チーム最多の11本塁打をマークしている中谷将大 ©時事通信社

 昨季はその中谷にとっても前進の年だった。先述した高山や原口、北條ほど目立たなかったものの、同じく金本阪神の超変革路線によって前年の11試合出場を大きく上回る64試合に出場し、苦節6年目にしてプロ初本塁打を含む4本塁打を記録した。

 そして今季、ご存知の通り中谷は昨季以上の成績を残している。現時点ですでに自己最多の86試合に出場、セールスポイントの本塁打も昨季より増え、初の二桁(11本)に乗せた。打率は2割台中盤と安定感を欠き、外野守備での手痛いミスや、金本監督を怒らせたバント失敗など、苦しい要素はいくつもあったものの、それでもミスはバットで取り返すという粗削りな若手らしい加点方式のアピールを続けている。

 特に去る7月27日のDeNA戦(甲子園)で放った11号スリーランは、レフト席中段に飛び込む、長距離打者らしい大きな当たりだった。阪神の生え抜き日本人打者で、あれだけの飛距離と強烈な弾道のホームランは誰以来だろう。パッと思い出せない。

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