阪神が“逆転優勝”するためには藤浪晋太郎の力が必要だ。
それは確かにまちがいないと思う。現在、阪神の先発投手はメッセンジャーと秋山拓巳が特に安定しているが、ここに二軍調整中の藤浪が復帰してくれば実に心強い。昨年から極度の制球難という不振が続く藤浪だが、本来の能力は誰もが認めるところだ。
だから、7月26日付のサンケイスポーツ(関西版)の一面には「藤浪よ、はよ帰ってこい!」という大きな見出しが躍ったのだろう。それ以前にも阪神OBの藪恵壹氏が「藤浪の力がなければ、絶対に優勝することはできません。(中略)タイガースの浮沈は彼の後半戦の頑張りにかかっています」(web Sportiva 6/29)と語り、7月2日付のデイリースポーツにも「阪神の救世主は藤浪! 早い復帰待たれる」という記事が載るなど、藤浪の早期復帰を望む声は多くのマスコミに共通している。実際、現在のセ・リーグは首位・広島が独走しているため、モタモタしているとペナントの行方が決してしまいそうだ。
藤浪の将来を考えるなら、“早期”の復帰を望むべきなのか?
しかし、これらは冒頭で書いた「阪神が“逆転優勝”するため」という大前提があってこその共通意見である。よって、その大前提をいったん頭から離して考えてみると、果たして今の藤浪に“早期”の復帰を望むべきなのか、という異論が持ち上がってくる。
なにしろ、藤浪が陥っている制球難とは、とても一朝一夕で解決できるような簡単なものではなく、下手をしたら彼の投手人生そのものを左右しかねない、極めて深刻な問題のように思える。藤浪は阪神のみならず、球界の宝と言ってもいい逸材なのだから、個人的には早期復帰なんて気にせず、じっくり再調整に取り組んでほしいのだ。
もしかしたら、私のような阪神ファンは少数派で、これは本流の意見ではないのかもしれない。しかし、私はどうしても今季うんぬんという短期目標を掲げることができず、それよりも藤浪という逸材の輝かしい将来と、それに伴う阪神の長期的なヴィジョンのために彼を応援したいと思ってしまう。極端な話、今シーズンは棒に振ってもいいくらいの気持ちで、藤浪には完全復活、あるいはそれ以上の飛躍を遂げてもらいたい。
振り返ってみれば、藤浪は高校野球の甲子園大会で春夏連覇を果たし、プロ入り後も高卒1年目からいきなり一軍でバリバリ活躍してきた投手だ。普通の高卒投手に用意されがちな基礎的なステップを踏むことなく、その余りある才能で強打者たちを抑えてきた。
そんな怪物投手がここにきて大きな挫折を経験し、プロ5年目の今季は無期限の二軍調整を余儀なくされている。だから、現在の藤浪は遅まきながら二軍育成に取り組んでいるようなものだ、とも考えられる。同い年の日本ハム・大谷翔平が1年目に経た二軍でのステップを、藤浪は踏まなかったのだ。それを今になって踏んでいるのだと思えば、順番こそ逆になったものの、有意義なことではないか。