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【阪神】金本監督が指揮を執る「4番育成物語」 主役はルーキーの大山悠輔?

文春野球コラム ペナントレース2017

2017/07/07

 今季ここまでの阪神はセ・リーグ2位である。最近は調子が落ちてきているものの、昨年の同時期が借金生活だったことを考えると、決して悪くはない成績だ。
しかし、個人的に少し残念に思うことは、若手野手(ここでは投手を除く)の伸び悩み問題である。昨年台頭してきた高山俊や原口文仁、北條史也らが順調に成長したうえでの2位なら素直に喜ばしいわけだが、これがそうじゃないから現実は難しい。生え抜きの若手野手の育成とは、阪神にとってチームの勝利と同じくらい重要な課題だからだ。

 思えば一昨年のオフ、阪神に金本知憲新監督が就任したとき、それに異を唱えるファンも少なくなかった。無理もない。彼は監督経験どころかコーチ経験もなかったのだ。

 もちろん、私も虎党の端くれだけに似たような想いがあった。いずれは金本監督になるにせよ、やはりコーチなどの経験を少しは積んでからのほうが良いのではないか。そんな月並みな正論が、どうしても頭から離れなかった。

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 しかし、就任当初の金本監督が「生え抜きの4番打者を育てたい」とはっきり口にしたのを聞いて、私は考えが変わった。いや、迷いがなくなった。普通、新監督というのはチームの優勝を当然の目標に掲げる一方で「守り勝つ野球」や「機動力野球」など全体的な野球のスタイルについて無難な抱負を語ることが多いのだが、金本監督は生え抜きの4番育成という、まるで打撃コーチのようなピンポイントの目標を語ったのである。

生え抜きの4番打者は、阪神の優勝以上に大きな課題

 誤解を恐れず書けば、これは私にとって阪神優勝以上の悲願であった。

 生え抜きの4番打者。4番目の打者ではなく、本当の意味での4番。阪神におけるその座は、1988年の掛布雅之引退以来、実に30年近くも空位のままだ。岡田彰布はやはり5番がしっくりきたし、その後も八木裕や新庄剛志、桧山進次郎、今岡誠、濱中治と、年間20本以上のホームランを打った選手はちょくちょく出てきたものの、彼らが押しも押されもせぬ4番として長く君臨することはなかった。ましてや、生え抜きの日本人選手による年間30本塁打以上は85年の掛布、岡田までさかのぼる。平成もまもなく終わると言われているのに、その平成に入ってからは一人もいないのだ。

 金本監督はそんな阪神の悪しき歴史について、はっきりと問題提起をして、それを解決したいと言った。ある意味、03年と05年の阪神優勝のときでさえ解決できなかった約30年にも及ぶ積年の難題。だからこそ、私はそこに挑もうとする金本監督の方針を支持した。育成が成功するかどうかはわからないけど、その心意気がうれしかった。現役時代の金本監督がいわゆる「外様の4番」として阪神優勝に貢献したのだから、4番は移籍組や外国人でも良いという意見もあるかもしれないが、その金本監督ご自身が生え抜きにこだわったことに意味がある。彼の問題意識は、外から見た阪神の姿でもあるわけだ。

 だから、私は指導者経験ゼロの金本監督のことを、実績ゼロの若手選手と同じように我慢して見守り、ひとまず黙って応援することにした。経験がないのだから最初は采配ミスもするだろうし、完璧を測る物差しで評価したらいくつものマイナス点が出てくるだろう。だけど、私はそれらを想定の範囲内として捉え、金本監督が指揮を執る「4番育成物語」に注目しようと思った。金本監督は立場的に「優勝を目指す」と言うだろうが、正直なところ私は阪神ファン失格の誹りを受けようとも、そんなに近々の優勝を熱望していない。それ以上に見たいのは、掛布以来の生え抜き4番打者の誕生だ。

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