バレないように東京―いわきを往復6時間
横田 原発取材のときは、現地に泊まってたんですか。
鈴木 宿舎があって3、4人で相部屋なんですけど、俺だけ泊まりませんでした。仕事ができないし、電話も取れないし、荷物でバレるから。ホテルは復興需要でどこも満室だし、1軒だけある漫画喫茶にも泊まれないときは、帰ってくるんです。東京からいわきまで約200キロを車で往復6時間かけて通勤するので、周りからおかしいと思われてました。「母が病気で」と言い訳してたんですが、「何こいつ」っていう話にはなってたみたい。
横田 原発で働きながら往復6時間ですか。
鈴木 大変でしたけど、怪しまれるから絶対に遅刻しないんですよ。働き方や取材のやり方に瑕疵があると、あとでそこからつっこまれるから。
横田 僕は、最初に働いた店の店長に迷惑がかかってないか、ずっと気になってるんです。その店を辞めて次へ行くとき、引っ越しを理由にしたんですよ。すると店長が、「ユニクロで働き続けるなら、次の店舗に推薦します」と言ってくれた。それなら履歴書も面接もいらないから楽だけれども、「僕を採用したのがこの人だけの責任になるやん」と思ったので、「まだ店舗を決めてないんで、自分でやります」と言って断わりました。僕より20歳若かったけれど、人望もあるし、仕事もできるし、なかなかの人物だったから。
鈴木 働いている仲間たちをかばいたい、みたいな気持ちも湧きましたね。原発でも築地でも、一緒に働いてる人らに感情移入して、勝手に仲間意識を持って。せっかく記事を書くなら、彼らの待遇が改善されるように、という思いもあるんです。
横田 パワハラやるようなイヤなやつだったら、自業自得やと思うけれども、いい人もいっぱいいるから。でも迷惑かかりますからね、いずれ活字になれば。
鈴木 迷惑かかるんですよね。そうなんです。
無遅刻、無欠勤を貫く
横田 あと僕が心掛けているのは、真面目に働くこと。潜入取材だからといって、労働に手を抜いていたら面白くないじゃないですか。だから労働時間内は、しっかりレジ打ちするし、棚の服をしっかり畳む。ちゃんと働かないと、仕事の意味が見えてこないんです。初め商品の位置がわからなくて、お客さんの質問に答えられなかったんですね。だから30分ぐらい早く出勤して、店内の地図を見ながら、商品の位置を覚えました。時給1000円でしたけど、時給分以上に働こうという気持ちでした。そのほうがストレスが少ないし。
鈴木 同じですね。だから、さぼったりしない。労働のお金が目的じゃないから、酒飲んでつぶれたら休めばいいんだけど、休まないですもんね。
横田 あとから「あいつ、いい加減に働いてたじゃん」と言われたらカッコ悪いから、遅刻も欠勤も早退もない。後ろ指はさされないように。それに、いい加減に働いて「今日は適当に休みますわ」という潜入ルポじゃ、読んでくれる人に説得力がないですもんね。
鈴木 原稿の仕事が本職だから、締め切りがあるときは休みたいんですよね。仕事のあとに書けばいいやと思っていても、ヘトヘトに消耗するので。
横田 そうそう。仕事が終わってから原稿を書くって、無理です。僕は8時間勤務の休憩1時間半だから、9時間半の拘束なんですよ。だから、働いている間、雑誌に頼まれた短い原稿なんかは、朝早く書いてました。
鈴木 休むのが不誠実な気がしたのは、あとで手の平をひっくり返すのを悪いと思っているからかな、とか自分で考えたりしましたね。
横田 正面から受けてくれれば半年で済む取材を、1年以上かけて休憩室で雑談を拾ったり、まぁ意固地になってた部分もありました。途中でバレたらカッコ悪いし、失敗できない。潜入取材は手間がかかるけれども、リアリティーが細かく積みあがっていく。その厚みが、他のノンフィクションとは違う醍醐味なんですよね。
ユニクロ×原発 潜入ジャーナリスト対談#3「奥さんに反対されませんでしたか」につづく
構成=石井謙一郎 写真=白澤正/文藝春秋
よこた・ますお/1965年福岡県生まれ。ジャーナリスト。著書に『ユニクロ帝国の光と影』『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』など。ユニクロの店舗で一年働き、長時間勤務の実態やパワハラの存在を報じた「週刊文春」の連載が話題になる(電子書籍『ユニクロ潜入一年』として発売中)。10月に連載をもとに大幅加筆した新刊を発売予定。
すずき・ともひこ/1966年北海道生まれ。雑誌、広告カメラマンを経て、ヤクザ専門誌『実話時代』編集部に入社。『実話時代BULL』編集長を務めた後、フリーライターに。東日本大震災の直後に福島第一原発で2カ月間作業員として働き、『ヤクザと原発』(文春文庫)を上梓。