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70年の歴史に幕引き 「麹町 吉乃家」が語る“とんかつ2020年問題”

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 また1軒、街の歴史を知るとんかつ屋が、店を閉めようとしている。麹町の「吉乃家」だ。新宿通りに面した便利のいい場所だが、周りには昔ながらの定食屋然とした食事処は多くなく、近隣に勤める方々のちょっとしたオアシスでもあった店だ。

麹町 新宿通りに面する「吉乃屋」は9月15日に閉店

「一番人気は塩カツ丼。カツに塩ダレとかつお節をかけてます」

 伺った時刻は14時半。こんな時間にも関わらず、お客さんは3組も。「これでもいつもよりだいぶ少ない方よ」と教えてくれたのは小森美佐子さん。この店の三代目、小森実志さんの奥様だ。

「この店を閉めるって貼り出したのは3ヶ月くらい前ね。うちはホームページとかブログもないし、どこかに広告を出したわけでもないんだけど、お店に貼っただけで口コミでお客さんが大勢来てくださるようになって。ここのところ毎日、開店する11時前から並んでくださってるし、15時になってもけっこうお客さんいるのよ。毎日来てくださる方もいるし、昔近くに勤めていた方が店を閉めるって聞いてわざわざ来てくださったり、初めて来ましたって方もいたわね。最近は昼も夜も、ずっとこんな調子です(笑)」

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 なるほど、たとえばこのカツライス、ご飯もカツもボリューム満点、このバリッとした特徴的な衣も肉の厚さも、いかにもとんかつ食ってるぞ! という感じで、これが950円で食べられるのはお得感がある。やっぱり一番人気はこのカツライスなのだろうか。

ボリューム満点のカツライス。近くの上智大生女子もペロリだとか

「実は一番人気は塩カツ丼。カツに塩ダレとかつお節をかけて丼にしてあります。そんなに古いメニューじゃなくて、5、6年くらい前からかな。ほかにも、わたしは長野県の駒ヶ根の出身なんですけど、駒ヶ根ってソースかつ丼で町おこししてるんですよ。それで実家に遊びに行ったときにいろいろ食べて研究して、うちでも出そうってことでやってるんです。主人の代になってからメニューも少しずつ増やしてたんですよ」

 たしかに塩カツ丼にソースカツ丼、それに味噌カツ丼、デミソースカツ丼(デミグラスソース)など、丼メニューは豊富だし、とんかつメニューもカツライスは4種、ヒレカツライス3種にチキン系も充実。よりどりみどりだ。