予約の取れない店として全国に名を轟かせるのが、吉祥寺にある赤身肉専門店「肉山」。オープン直後から赤身肉ブームを巻き起こし、いまでは全国で11店舗も展開するほどに。いったい肉山快進撃の秘密はなんだろうか。

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赤身肉で満腹になってもコース5000円!

 吉祥寺から歩くこと10分近く。目的の飲食店のすぐ近くにいるはずなのに見つからない。看板はないかと見上げると、古い雑居ビルの2階の窓に、急がしそうに動きまわる人影を発見する。そのふもとで確かめれば、プラスチックの板にマジックインキで「肉山」の文字がある。かすれた文字からして、かなり怪しい雰囲気だ。

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 本当にここなのか。首をかしげながら階段をのぼる。どこにも店の名前を書いたものが見当たらない。踊り場近くの重いドアを思い切って空ける。肉を焼く匂いが充満している。

炭で丁寧に焼かれた塊肉

 左側にキッチンがあり、そのまわりにカウンター9席、右側には6人がけのテーブルが2つ置かれている。イスの間隔から判断すれば、かなり窮屈そうに思える。しかし、先客は上機嫌で、ビールを飲みながらすでにテーブルに並んだキムチを笑顔で頬張っている。間違いない。ここがグルメの間で、聖地の一つとして知られる赤身肉専門店「肉山」なのだ。

「肉山」の名前が有名になったのは、予約が取れないことの影響が大きい。炭火焼きの赤身肉が、次から次へとテーブルに並び、締めの御飯を食べ終わる頃には苦しいぐらいに満腹になる。それでいて、コース料理は5000円。飲み放題をつけても1万円と聞けば、自分も行こうと予約を試みる。ところが電話口では、毎月1日の正午に、2カ月先の予約を開始すると教えられるだけ。そこで1日を待って電話をしても、まずつながらない。まるで有名アーティストのチケット争奪戦である。

「肉山」の予約を持っていれば、本来ならば冷たくあしらわれてしまう相手であっても、簡単にデートへ誘えるとの見方さえある。「肉山」の「山」に引っ掛けて、同店に行くことを登山と呼び、登頂のチャンスをうかがうグルメたちが多いのだ。

「肉山」の創業者である光山英明氏は元高校球児。店の常連は親しみを込めて「キャプテン」と呼ぶ。大阪の甲子園常連校、上宮高校3年生のときにファーストを守る主将として甲子園大会に出場、ベスト8に駒を進めた。野球推薦の枠で中央大学に進学したが、プロ野球選手になるつもりは最初からなかったという。野球部の寮があったのは吉祥寺。まさか10年後にこの地で、飲食店を経営することになるとは夢にも思っていなかったらしい。

「肉山」オーナーの光山英明氏

 ここにきて「肉山」の勢いが加速している。5月16日には沖縄店をオープン、さらに年内には千葉、群馬、神奈川にも進出し総計11店舗になる予定。

 全国展開の第1号は、2015年の8月17日にオープンした名古屋。そこから大宮、福岡、高松、神戸、仙台、大阪と、立て続けに出店した。わずか2年の間の出来事である。「1都道府県1肉山を目指している」と光山氏は笑顔を見せた。この勢いなら東京オリンピックの開かれる2020年には、目標を達成してしまうかもしれない。

 実は光山氏が関わるのは「肉山」だけではない。「肉と日本酒」「のんき」「旬恵庵あら垣」「中野餃子やまよし」など、とどまるところを知らない。いずれの店もオープンして数カ月すると、肉山同様、予約が難しい店になる。このため、リニューアルして繁盛店になる飲食店が現れると、裏には光山氏がいるのではないかと噂になるほどだ。フランチャイズを含めたら、光山氏が関わる飲食店は50を突破しているだろう。