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大栗 博司
2016/08/30

「世紀の大発見」の陰の挫折と苦悩

『重力波は歌う アインシュタイン最後の宿題に挑んだ科学者たち』 (ジャンナ・レヴィン 著/田沢恭子・松井信彦 訳)

source : 週刊文春 2016年8月25日号

genre : エンタメ, 読書

今年の二月、米国のLIGOと呼ばれる研究施設が、「重力波」の初の直接観測を発表し、各紙の一面トップを飾る大ニュースになった。重力波とは、重力の強弱が波のように伝わる現象で、アインシュタインが百年前に予言していたものだ。この成功によって、我々は宇宙に響いている重力波の歌を聞くことができるようになった。LIGO創始者であるカリフォルニア工科大学のソーンとドリーバー、マサチューセッツ工科大学のワイスの三教授は、今年のノーベル物理学賞の最有力候補だと言われている。

 私は二〇〇〇年にカリフォルニア工科大学の教授に着任したが、当時すでに二十年以上の年月と巨額の資金がLIGOの開発に投入されており、その成否には大学の命運がかかっていた。

 新任の私にとって、LIGOは謎めいた存在でもあった。創始者のひとりのはずのドリーバーは、LIGOの活動には参加しておらず、大学の片隅に小さな実験室を与えられて、一人でこつこつ研究をしていた。ときおり大学の会合に現れるボート教授も正体不明だった。「LIGOの統括責任者だった」と聞くが、同僚たちは敬して遠ざけている。一体何があったのか。

 本書は、そうした疑問に、すべて答えてくれた。

 著者ジャンナ・レビンは、カリフォルニア工科大学とLIGOの許可を得て、このプロジェクトに携わった研究者たちを取材し、世紀の大発見の陰の挫折と苦悩を赤裸々に描いている。

 LIGOが小さな実験グループだったときには天才的なアイデアを次々に生み出すものの、プロジェクトが巨大化するとつまはじきにされるドリーバー。米国政府からの巨額な資金の獲得に成功するが、数多くの敵を作り、連邦議会の承認を受け建設予算が執行される直前に失脚するボート。

 重力波の科学解説書ではないが、その観測に成功した現場のドキュメンタリーとして最高に面白い。私の大学でこんなドラマが起きていたとは、と驚かされた。

Janna Levin/コロンビア大学バーナード・カレッジ物理学・天文学教授。宇宙物理学者としてブラックホール、重力波などを研究するかたわら、ポピュラーサイエンスの著書も多数出版している。

おおぐりひろし/カリフォルニア工科大学教授および理論物理学研究所所長。著書に『重力とは何か』『大栗先生の超弦理論入門』等。

重力波は歌う:アインシュタイン最後の宿題に挑んだ科学者たち

ジャンナ ・レヴィン(著),田沢 恭子(翻訳)

早川書房
2016年6月16日 発売

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