ある人が「八高線沿線に住んでいる」と言った。それに対して、周囲は一斉に大笑い。「どんなド田舎から出てきているんだ」「クマかサルでも乗ってるのか」「じゃあお前は電車じゃなくて汽車に乗ってるんだな」。次々に飛び交う罵声。それに対して件の八高線民は「うるせえ、もうすぐ電化されるんだよ!」といきり立ち、一同ドッと笑ってオチがつく――。
これ、90年代半ば頃の東京都心でしばしば見られた八高線あるあるトーク。神奈川県内では八高線を相模線に置き換えて同じような会話が繰り広げられていた。覚えている人もいるだろう(いない?)。ごらんのように八高線と相模線は“ローカル線”の代名詞だった。首都圏の通勤通学路線でありながらも90年代まで“非電化”で現在も単線という共通項、関東平野の西縁を走るという地理的条件、そして沿線の微妙な寂しさや田園風景など、どこからどうみてもローカル線だった。
茅ヶ崎から乗車。海老名といえば、いきものががり
ならば今、これらの路線はどうなっているのだろうか。筆者が執筆を担当した『全国鉄道路線大全2017』でも、もちろんこの2路線を紹介している。が、入れこめない要素もたっぷりあったので、ここで書き尽くすことにしたい。
というわけで、早速相模線の起点・茅ケ崎駅である。茅ケ崎と言えば湘南。湘南といえば茅ケ崎。が、ここでは湘南気分を抑えて相模線に乗り込む。相模線はその名の通り相模川に沿って旧相模国を縦断する路線。というわけで、湘南茅ケ崎と言っても海は無視して内陸の北へ向かうのだ。
相模線の沿線にある主要な町といえば、せいぜい海老名くらい。海老名と言えば、巨大サービスエリアといきものがかりが有名で、駅前にはナゾの七重塔を取り囲む商業施設ビナウォークが目立つ。が、海老名駅のメインは小田急線であり、相模線海老名駅はいわば“裏側”。小田急海老名駅との間には再開発を待つ空き地が広がり、なんともうらさびれた雰囲気が漂う。これぞザ・相模線である(一応ららぽーと海老名は相模線側)。
茅ケ崎方面から乗り込んだ乗客の大半は海老名駅で降りてしまい、海老名~橋本間の車内はガラガラ。そんな中、見逃せない駅のひとつが番田駅だ。周辺には住宅地が広がるだけのしがない無人駅なのだが、木造駅舎が完成したのはなんと1941年。その当時、相模線は相模鉄道の路線だった。そう横浜駅を起点に神奈川県内を走るあの大手私鉄・相模鉄道である。