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山本 一郎
2017/09/07

「新垣結衣はいなかった」契約結婚サイトに見る修羅と煉獄の一部始終

希望に満ちた呪詛、この時代の“家族の入口”

 人気女優の新垣結衣が主演して話題になった契約結婚のドラマがあったのですが、私の古くからの畏友で業界きっての変人技術者と名高い村上福之というナイスガイが建立した『契約結婚募集』というハイブローな名前のサイトがあります。

 ある男、募集して曰く「富山県の魚津市です、童貞でも気にしない方18~33迄の女性でお願いします、結婚等は考えてないです、只エッチがしたいだけです」。また別の女、「大阪寄りの兵庫県(46)。未婚、子無し。容姿は『恵まれてるね』と言われることもあります。身長が高く、痩せています。普通の婚活が難しいのでこちらに来ました。妊娠したいのですが、年齢から出来ないかもしれないため、一日も早くの婚姻を急いでいます。うつ病で薬を飲んでいます。借金あり6社200万円。他に月に医療保険代3万円払っています」。

新垣結衣 ©志水隆/文藝春秋

人は顔の見えないネットであればこんな恥を晒せるのでしょうか

 世間を知らない青い人の劣情前提の書き込みあり、人生に見込みがなくなって緩慢な社会的死を受け入れられず無条件の愛情を求める書き込みあり、あわよくばうまい話を求めて、人は顔の見えないネットであればこんな恥を晒せる瞬間もあるということなのでしょうか。

 さらに閲覧をしていくと、人間社会というものはかくも闇深く、救いがないのかと呆然とするような「契約結婚相手の募集」文面が次々と表示され、嫌悪感からくる頭痛やめまいを通り越して胸をかきむしりたくなるほどの精神的窒息感を覚える内容です。遭難した冬山で寝そうになって仲間から叩き起こされる心境を味わえるかもしれないぐらい、異次元の募集になっておるわけであります。

 もちろん、幸せな契約結婚を実現できた人もいるのでしょう。また、身の周りにも性交渉も財産も一切交わらせずに入籍したまま淡々とした結婚生活を送り続けるカップルもいますし、親から相続した一軒家をゲストハウスにしたら中年から大学生まで男女8人が住み着いてひとつ屋根の下くんずほぐれつ家族になっているケースさえもあります。結婚して、妻を愛して、子供を育てて、という「普通」の家庭ばかりが世の中ではないと理性では分かりつつ、本来あるべき家族の姿というものが実は幻想にすぎず、人間は自由を手にすると意外とどういうことだってできてしまうのだ、という事実に向き合うのは大変なことなのであります。

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