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「日本だって朝鮮人を強制連行したんだから」嫌がらせを受けても拉致問題に声をあげる理由

野伏翔(映画監督・演出家)

2021/02/18
note

舞台では出来ない拉致シーン

――めぐみさん拉致のシーンはとても怖かったです。

野伏 北朝鮮の収容所の暴動シーンや拉致されて船で連れて行かれるシーンは舞台ではできないシーンですし、スタッフ一同、映画としてここが勝負だという意識でした。めぐみさんの拉致シーンでは、めぐみさんが殴られて気絶して、息を吹き返さなければ海に捨てられるという描写を特に描きたかったです。これも実際の工作員の証言です。拉致する際、いきなり顔面を蹴ったりして気絶させるんですが、力が強すぎて死んでしまうことがあるので、そういう場合、なるべく早く日本の沿岸で捨てれば、事故か自殺として処理されるそうです。

©映画「めぐみへの誓い」製作委員会

政府の悪口を言わないように口に石を詰め…

――今、話に出た収容所の暴動シーンも壮絶でした。

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野伏 収容所から逃げてきた人の証言では、過去1度、本当に大暴動があったそうです。徹底的な弾圧と、連座制で家族も殺されてしまい、それからはもう立ち上がる人がいなくなってしまったということです。めぐみさんはおそらく収容所には行っていないでしょうから、苦肉の策で夢という体裁にしました。収容所に行ったらいつでも射殺される可能性があって、もう終わりだと言われていて、恐怖の中で生きているそうです。常に2万人以上いて奴隷労働させられているんですが、その労働力が北朝鮮を支えているんだと思います。公開処刑では、当事者は杭に繋がれて、その前に座るのが家族。最前列が子どもで、2列目が親や親戚。政府の悪口を言わないように口に石を詰められて全員処刑されるそうです。これも実際に目撃した人の証言ですが、ひどい話です。国とも言えないです。

――今回の映画化に際して新たに知ったことは?

野伏 舞台の場合は朝鮮語部分も日本語で演じているんですが、今回は映画だから朝鮮語にして字幕を入れることにしたので、新たに知り合った脱北者の方に翻訳をお願いしました。その方たちから、金日成と金正日のバッジをふたつ付けられる人とひとつしか付けられない人がいるとか、階級の違いなど細かいことを教わって、細部にこだわって映像にしました。

©映画「めぐみへの誓い」製作委員会

「日本だって朝鮮人を強制連行したんだから」署名活動での嫌がらせ

――劇中で、署名活動をしている時に周囲から揶揄されるシーンがありましたが、長い活動の中で周囲の無理解も多かったのではないかと思いました。

野伏 チラシを叩き落とされたのは実際に横田滋さんがやられたことで、映像にも残っています。僕も署名活動には年に数回参加しますけど、こういう嫌がらせは3回に1回くらいはありますね。僕自身は絡まれませんが、おとなしくチラシを配っているような人に対して、「日本だって朝鮮人を強制連行したんだから」と嫌味を言ってきたり、黙って地面に唾を吐いていったり。けれど、警察も2~3人立っていて、何かあったら止めてくれるので、大きいトラブルは全くないです。映画でも描かれますが、小松政夫さんが演じた在日の方が北朝鮮に利用されて拉致に関与していたのは確かなので、きっと在日の方たちも、こういう事実が明るみに出て、北朝鮮がまともな国になって自由に行き来したいというのが本音の部分だと思います。