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クジラの追い込み漁は“悪”なのか NY在住の映画監督が問いかける

著者は語る 『おクジラさま ふたつの正義の物語』(佐々木芽生 著)

『おクジラさま ふたつの正義の物語』(佐々木芽生 著)

 2009年、和歌山県太地(たいじ)町のクジラの追い込み漁を、まるで悪事のように糾弾した映画が公開された。大反響とともに翌年アカデミー賞を受賞したその映画『ザ・コーヴ』を当時、居住するニューヨークで見た映画監督の佐々木芽生さんは、言いようのない衝撃を受けたという。

「あの映画を見て、なんとなく変だと思った人はアメリカにも多かったんです。ただ、どこがおかしいのか分からない。一方で、日本からは何もメッセージが発信されてこない。映画への批判がドメスティックに盛り上がっていたのは知っていましたが、多くは『あれはドキュメンタリーではない』というズレた議論に終始していました。映画は作家の言いたいことを映像表現で伝えるものですから、メッセージ性が強くあるのは当然です。だから、太地町の捕鯨で生きる人々と、反捕鯨の人々、両者にバランスのとれた映画を自分がとろうと思いました」

ささきめぐみ/1962年札幌市生まれ。青山学院大学卒。87年渡米。フリーのジャーナリストなどを経て、2008年『ハーブ&ドロシー』で映画監督に。同作でハンプトン国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞など多数受賞。本書がはじめての著書。

 それが、いま全国で順次公開されている『おクジラさま ふたつの正義の物語』だ。途中中断を挟みながら、あしかけ7年にわたる制作期間中には、反捕鯨派による攻撃を受けたり、内に閉じるようになった太地町の漁師たちに撮影を認めてもらうため、漁協の組合長と前後不覚になるまで酒を酌み交わしたりもした。

「その場その場で最善をつくしてきただけです(笑)。とはいえ対象に寄り添いすぎないよう適度な距離を意識しました。シーシェパードや漁師に話を聞くときも、どちらかに加担していると思われないよう、あえてお互いの目の前で取材するようにしました。この問題で私が学んだのは、正義の反対は、悪ではなくて別の正義だということ。映画を観た後で、できるだけみんなに考えてもらえればと思っています」

 このたび映画と同タイトルの書籍も刊行した。同書に取材の様子や苦労を詳しく綴っている。

「映画は現場の撮影のほか、編集や宣伝配給など各フェーズ(局面)で色々な人とのチームワークによって作り上げていきますが、本の執筆はずっとひとりの作業。集中力のかけ方が違いますね。また、映画には余白の部分が必要ですので、すべてを語って説明するのではなく、100あるうちの70ぐらいまでに抑えて、あとは観る人に委ねています。その分、本では、自分が撮影中や取材中に何を思っていたかを書き込みました。映画の行間を埋めたような内容になったと思います」

『おクジラさま ふたつの正義の物語』
人口わずか3000人の和歌山県太地町。クジラの追い込み漁で知られるこの町が、世界的なネットワークを持つ反捕鯨グループの標的になった。両者の主張はそれぞれの正義を唱え、決して交わることがない。取材をするなかで筆者は考えを深めていくが……。同名映画は全国順次公開中(http://okujirasama.com)。

おクジラさま ふたつの正義の物語

佐々木 芽生(著)

集英社
2017年8月25日 発売

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