高齢者2人を包丁で刺して殺害しながら、盗んだのは約7000円と犯行後に囓ったリンゴ2個――。2020年9月に死刑が確定した土屋和也死刑囚(32)を、不可解な犯行に駆り立てたものは何だったのか。
土屋本人や母親への取材、土屋が綴った手記から見えてきたのは、度重なる離婚や施設に預けられたことで摩耗しきっていた親子の絆だった。『売春島』などの著作で知られるノンフィクションライター・高木瑞穂氏が取材した。(全2回の2回目/#1を読む)
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「計画停電で熱帯魚が死んだから事件を起こした」
手記から読み取れない和也の心情を、面会を重ねた映像作家の「日影のこえ」氏が補足する。
「彼は発達障害と認定されているように、人と話すのが猛烈に苦手だった。それで前橋にいた時に唯一の友達が熱帯魚だったっていうんですよ。餌をあげようとすると口を近づけてきてくれてうれしかったって。でもそれが東日本大震災の計画停電で死んじゃったらしいんですよ。それで自暴自棄になってネットゲームに課金してどうにもならなくて、事件を起こしたと説明してるんですが、ちょっと違う気がする。
計画停電が2011年、事件が2014年と、ちょっと時期が合わない。本人は口にしないけど、お母さんが近くからいなくなったことが事件の引き金の一つになったんじゃないかと思いますね。お母さんに対して恨みがあるってずっと言ってたけど、いつも手紙を書いていたみたいだし」
決行の日は2014年11月10日未明。母からの連絡が途絶え、生活にも困窮した直後のことである。
「和也君の私物は受け取りますが、取りに行くことはできません」
和也の元に捜査員が辿り着いたのは、2度目の殺人から1週間後のことだった。
〈和也君へ。手紙で失礼します〉
和也の書いた手記に補足するための話をお願いした際、別れ際に「和也に渡してください」と、僕らは土屋和也死刑囚の実母・聖子(仮名、53)から1通の手紙を預かった。彼女は、実子が「会いたい」旨を記して送り続けた手紙に対し、それまで一度も返信していなかった。
息子の死刑確定を受けて初めてペンを持った母。2021年2月5日、最高裁の判決から約5ヶ月後のことである。2人の関係性を理解するために、僕らは聖子から手紙の内容を記事で公開する許しを得た。
〈明けましておめでとうございます。和也君、普段は何をしてますか? 今、現在、世界中、日本でもコロナウィルス感染症といって、各地では自粛してマスクして、等との事で毎日が大変な時期でもあり、インフルエンザにも気をくばり気をつけています。和也君の体調は大丈夫ですか? 風邪は?〉
書き出しは、コロナ禍で息子の体調を気遣う言葉から始まる。つたない文章ながら、ごくごく普通の母親の姿そのものだろう。