高齢者2人を包丁で刺して殺害しながら、盗んだのは約7000円と犯行後に囓ったリンゴ2個――。2020年9月に死刑が確定した土屋和也死刑囚(32)を、不可解な犯行に駆り立てたものは何だったのか。

『売春島』などの著作で知られるノンフィクションライター・高木瑞穂氏が、土屋本人や家族への取材、土屋から受け取った手記から解き明かした。(全2回の1回目/#2を読む)

和也が綴った「直筆の手記」(筆者提供)

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「はよ、判決言えや。死刑だろうが!!」

〈被告である自分は、あの日証言台の席でややうなだれていた。

 

(裁判長)「これより判決を言い渡す。被告人前へ」

 

 それを聞いて証言台へ移動する。

 

「はよ、判決言えや。死刑だろうが!!」

 

 そう心の中で叫んでいた。

 

(裁判長)「主文は後に回して罪となるべき事実、理由から先に述べる」

 

 後方、傍聴席の記者席からバタバタと急いで法廷内から外に出ていった。

 

「はい正解予想通り」

 

 判決文を読み進める裁判長。それから一息吐いてこう言った。

 

(裁判長)「被告人起立しなさい。主文を言い渡します」

 

「下手なドラマでもこんな演出しねぇぞ」

 

(裁判長)「主文。被告人を死刑に処する」

 

「はいはい、茶番、茶番。はじめから死刑って言えや。後からペタペタと理由を補完する様な文体にすんな」〉(一部要約、以下同)

 これは、2人の高齢者を殺害したとして死刑判決を下された男、土屋和也の述懐である。発言者が明記されていない箇所は彼の、当時の心情だ。

和也が綴った手記

 和也は手記でこう息巻いたが、後に彼が綴った別の文章と照らし合わせると、それが咄嗟に出た“空いばり”だと分かる。自分は根っからのシリアルキラー(連続殺人犯)じゃない。悪いのは母親始め、世間だ。そんなやりきれない思いが感じ取れるのだ。

〈自分にとっての転機は、良くも悪くも4歳から15歳まで過ごした児童福祉施設です。それが一番影響が大きい。年を重ねる度、自分に対しての自信、期待、夢が薄れていきました。

 

 俺。虚勢だった。

 

 体調は普通…時々、昔の仕打ちや行動を思い返しては悔やんだり、頭に来たり、非のない人などに八つ当たりしたことを反省しています。

 

 人生やり直したいけど、またあんな思いをするのは……〉(和也の手記より)

 裁判員裁判での一般裁判員のなかには、その境遇から彼に同情する声も少なくない。犯した罪に弁解の余地はないが、確かに和也には「またあんな思いをするのは……」と、生きることを躊躇するほど安息の地がなかった。

 僕は一審での死刑判決直後の2016年8月から友人の映像作家「日影のこえ」氏と共に取材を始め、和也への面会を重ねた。

 きっかけは後先考えない和也の犯行にあった。分別のある成人男性が起こした事件にしてはあまりにも短絡すぎる。

 なにしろ人を2人も殺して得たものが現金約7000円とリンゴ2個だけなのだ。本稿はそんな死刑囚を生んでしまった家族との、いびつな半生の記録である。