殺人現場に残された「かじりかけのリンゴ」
群馬県前橋市。どの地方都市にもある長閑な住宅街で事件は起こった。
2014年11月10日午前3時頃、土屋和也(26歳、当時)は、93歳の女性宅に侵入し、女性をバールで殴り包丁で刺して殺害。現金約7000円を奪う。
1ヶ月後、12月16日午前3時半頃にも女性宅から約700メートル離れた81歳の男性宅に侵入し、包丁で男性の首や左脇を刺して殺害。トイレから出てきた80歳の妻も切りつけて重傷を負わせた。10時間ほどこの家に潜んだ後、夫婦を襲った。盗んだのはリンゴ2個だけだった。
逮捕の決め手は、現場に残されたリンゴだった。男性宅への侵入口となったとみられる、割られた出窓がある部屋には、芯の部分まで食べ切ったり、かじったりした状態のリンゴが複数残されていたのだ。
付近の防犯カメラには事件後、和也とよく似た男が写り、現場に残されたリンゴに付着したDNA型と、彼の型とが一致した。俗に『前橋高齢者連続殺傷事件』と呼ばれている。金目当ての強盗殺人事件と報じられたが、その犯行目的と残忍な犯行の整合性がとれず、物証となるリンゴをわざわざ血まみれの現場に残した点も含めて、不可解な点の多い事件とされた。
和也の自宅を捜査すると、室内はカップ麺やペットボトルなどのゴミで散らかり、電気は止められ、生活が苦しかった様子が垣間見られたという。
警察での取り調べに対して「家に入ったら人がいたので、刺した」「借金があり生活に困っていた」などと供述した和也は、高齢者2人を強盗目的で殺害し、1人に重傷を追わせたとして一審で死刑判決を受ける。
続く二審でも控訴は棄却。最高裁に上告するも判決は覆らず2020年9月8日、死刑が確定した。