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「国は企業も個人も助けない」 コロナ禍で休業を決めた「高太郎」のシェフが語る“就職氷河期世代”の生き方

『シェフたちのコロナ禍 道なき道をゆく三十四人の記録』より#前編

2021/05/13

source : 文藝出版局

genre : エンタメ, グルメ, 社会, 働き方, 読書

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予約帳の名前を一つずつ消していく

「高太郎」は2011年3月29日に開店して、2020年で9周年を迎えました。27日までコロナの影響はほぼなくて、むしろお祝い週間で二回転目もずっと忙しかったほど。(週末の外出自粛が都民へ強く要請された)27日から、急にキャンセルが出始めたんですけど、新しい予約が入って、結局はいつもの賑わいになっていました。

 ありがたいですね。お客さんのほうも、吞んで食べるひとときくらいは不安を忘れたい、そんな感じでした。常連さんが多いので、お店を信頼してくれているのだとも思います。

 僕らはその信頼に応えなきゃいけませんから、スタッフの手洗いうがい、消毒、マスクはもちろん、お客さんにも来店後すぐ手洗いをしていただく。入口を開け、扇風機を置いて換気もする。三密を避けながらも、4月4日土曜までは変わらず営業できました。

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(林高太郎さん提供)

 来週もなんとかいけるかな? と予想して、週明けの6日月曜には魚の仕入れもしたんです。でもその日の夕方に「緊急事態宣言が明日発令」と報道され、その通りになりました。

 食材は買ってあるし、席も埋まっていたけど、これはもう駄目だ。飲食店への休業要請はありませんでしたが、感染するのも、させるのも避けるには店を閉めるしかないんじゃないか。そう考えて、8日から2週間を目安に休業を決めました。以降は様子を見て、状況に応じようと。

 4月7日、予約のお客さん全員に「再開したらご連絡しますので」と謝りながらキャンセルの電話をしました。「がんばれよ」と励ましてもらったり、「せっかく予約が取れたのに」と残念がってくださったり。「じつはキャンセルしづらくて。そちらから言ってくれてありがとう」とお礼を言われる方もいました。

 せつないですよね。

 日々、お店に来てもらおう、ぜひ来てください、と努力しているのに、予約帳の名前を一つずつ、自分で消していくわけですから。