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【日本ハム】今季最終戦はファイターズのカーテンコールだった

文春野球コラム ペナントレース2017

今日一日はこのチームのことを考えよう

 コボスタは曇天だった。ファイターズにとっては今季最終戦だ。体育の日の祝日とあって客の出足が早い。自由席がまず埋まって、指定席も人の流れが途切れない。これは2万5千は行くんじゃないかな。楽天は明日、ロッテ戦がレギュラーシーズンの最終戦になる。で、中3日空けて、14日からはいよいよCS第1ステージの西武戦だ。つまり、イーグルスもファンも意気軒昂だった。勘を鈍らせないためにハム、ロッテとの実戦は大変貴重だ。

 試合に向かう気持ちが残念ながらぜんぜん違う。目標のあるチームはいいなぁ。うちはカーテンコールみたいな試合だ。2017年シーズンを惜しんで、チームを離れることになるコーチ、選手らに盛大な拍手を送っていたら、緞帳(どんちょう)が上がって、もう1試合だけコボスタで試合を見せてくれた、という感じ。野球やってくれるだけで儲けものだ。

 これから長い間、冬ごもりなのだ。ファイターズはゲームなしだ。ぶっちゃけ12月3日あたりに偶然、札幌ドームの近くを通りかかったら待機列が伸びていて、どうもヤミ開催の楽天戦を1試合だけやるらしい、と聞いたらふらふらっと入っちゃいそうではないか。南ゲート3だけ開けるらしいんだな。「先発は有原と美馬」「大谷が3番打つ」。サングラスした係員が言葉少なに情報をくれるんだ。本当のファイターズなのかは入場してみないと何とも言えない。案外、茨城県に本拠を置く「水海道日本公ファイターズ」(にっぽんおおやけ?)というまったくの別物だったりして。

 そこへ行くと楽天25回戦はれっきとした公式戦だ。チケットも正規料金。係員もサングラスはしていない。有難いことに両チームとも本物。有原航平は2ケタ勝利をかけてマウンドに立つ。なんくるないさー。見るさー。嬉しすぎて意味不明に沖縄弁だ。そして野球の面白いところは、「CSを控えモチベーション高いチーム」が「カーテンコールで出てきたようなチーム」に必ずしも勝つとは限らないことだ。

 ファイターズはこっそりだけど、昨年日本一のチームに戻っていた。大谷翔平は投打に完全復活し、近藤健介は順調に回復、リタイア前より打率を上げている(!)。レアードはいとこがラスベガスの銃乱射事件の犠牲になり、緊急帰国してしまった(哀悼の意を表します)けれど、中島卓也がこの日、1軍登録されている。西川遥輝は死球禍の後、抹消されずに帯同しているから久々に「ハルタク」が揃った。ベンチはにぎやかだ。中田翔がいて、杉谷拳士がいる。白井一幸コーチ、黒木知宏コーチの姿もある。

 今日一日はこのチームのことを考えよう。今日一日は永遠だから。みんないる。誰もどこへも行かない。野球シーズンは終わらない。オーケー?

今季、国内FA権を取得した中田翔 ©文藝春秋

「いかんなぁ」の顔をする王様

 立ち上がり有原が自身の暴投も込みで簡単に点を与えた。ポンスカ打たれて満塁まで行ったがビッグイニングになるのだけはどうにか防いだ。僕は有原の顔が好きだ。特に思い通りにいかなくて、「あぁ、これはいかんなぁ」という顔をするとき、「いかんなぁ」なのにけっこう立派な顔をしているのが好きだ。この人の面白さは身に付いた立派さだ。投手陣がいつだったかのキャンプで「有原キングダム」のTシャツを作って、皆で着るジョークというか趣向を楽しんだことがあったが、有原は本当に「有原王国」に住んでるような感じがある。立派なのだ。王様なのだ。

 「王様は球が来てない」

 今季どこかの時点で臣下がそう言うべきだった。だから何度も有原は「あぁ、これはいかんなぁ」という顔をしなければならなかった。カットボールとチェンジアップで術中にはめていく投球術も、力のあるストレートが前提であるはずだった。昨シーズンのベスト時と比べて、威圧感がまるで違う。この日は1回に続いて3回にも満塁をつくってしまった。が、大事には至らなかったのは王様のご威光か。

 ていうか楽天打線も大概だったと思う。今季、パを盛り上げた最高殊勲チーム・楽天はシーズン終盤になって急降下、優勝争いどころか2位争いにも敗れたのだ。僕は各チームの今季の順位を折れ線グラフにして、推移を表した表を見せてもらったことがある。これが楽天以外はほぼ横ばいなのである。ファイターズで言えばずーっと5位だ。4位に浮上しないかわりに6位にも落ちない。ベタ凪(なぎ)のシーズンにあって、お盆過ぎから楽天だけが急降下している。CSを思うと試合勘よりリフレッシュのほうが必要なのかもしれない。まだまだ本来の元気からは遠い。

 楽天打線が拙攻を繰り返すうち、有原がペースをつかみだす。さすが一国の王だ。コボスタのマウンドを統治する。以前、当コラムで用いた表現を使うと「幽体離脱から有原が戻ってくる」感覚だ。結局、7回を9被安打2四球ながら1失点(105球)でまとめる。9被安打のうち7本が3回までに打たれたものだった。

 一方、美馬はまずまずだった。たぶん大谷翔平との対決をスポーツニュースでご覧になった方も多いだろう。大谷はノーヒットだ。2013年日本シリーズでの活躍を考えても、美馬は短期決戦に強そうに思える。CSになって更に一段、状態が上がると面白い。この試合は若手の横尾俊建、石井一成に打たれて、3失点だった。何かそうなっちゃうんだなぁ、大谷や中田でなく、これからのワカゾーが仕事をした。

 7回表、満塁の好機に石井があっさりセンター前へタイムリーを打って、続く大谷が見逃し三振に倒れたシーン。楽天の変則左腕ルーキー・高梨雄平が「1失点で踏ん張った」というのが全てだけど、大谷の抱えるものがちょっと大き過ぎたね。僕らはホームランを打つものと決めてかかっていた。何でかっていうとスーパースターだから。