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サイン盗みは“なかった”とすると、あのとき近本光司選手は“何をやっていたのか”を妄想する

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/07/12
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3.トム&ジェリー説

 ある方向に走り出そうとする際、一度、それとは逆方向に足と腕を出し、そのあとピューッと走り出す……「トム&ジェリー」など昔のアニメでよく用いられた走行スタイルです。あれでなぜ速く走れるのかはイマイチ判然としませんが、反動をつけてから飛び出す、ということなのかと思います。

 ひょっとしたら近本選手は、あの走り方を取り入れようとしたのではないでしょうか。実際、2回目に手を動かした直後、すぐに3塁方向に動き出しています。近本選手は動物の動きを真似たトレーニング手法である「アニマルフロー」を取り入れているそうで、そのこともこの「トム&ジェリー説」を裏付けているように思われます。あんな動きをするネコやネズミが現実にいてたまるか、という気もしますが。

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 盗塁王を取ったほどの近本選手ですが、さらなるスピードを実現すべく、種族を問わず貪欲に新しい技術の習得に挑む。そんなあくなき向上心を感じます。

4.フラダンス説

 ハワイの伝統舞踊であるフラダンスは、「手」の動きだけでさまざまな感情を伝えることができるそうです。代表的なものは「愛」。手の動きで「好き」という感情を伝えるわけです。

 バッターボックスに立つ佐藤選手にこのタイミングで愛を伝える必要などまったくないわけで(伝えたければベンチ裏にでも呼び出せばいい)、ひょっとするとこのケースでは、マウンドに立つ田口麗斗投手へのメッセージだったのではないでしょうか。映像を見ると、田口投手が後ろを振り向くタイミングと、近本選手が手を動かすタイミングが重なっているようにも見えます。

 ちなみに近本選手は田口投手と相性がよく、昨年までは16打数6安打、今季もこの試合前まで13打数9安打。このときも先頭打者としてヒットで出塁したばかりでした。そんな、いつも打たせてくれる田口投手に対して、近本選手から「好き」というメッセージを送った……そうは考えられないでしょうか。まぁ、だとしたらなめられている可能性があるので、田口投手は怒っていいと思います。

結論から言うと「検証は無意味」

 すいません、途中から話が妙な方向に脱線いたしました……。こうやって検証していくとやっぱり、「帰塁のタイミングをはかっていた」説が一番無理がないような気がしてきました。

 ともあれ、ここで言いたいのは、「悪魔の証明はことほど左様に難しい」ということです。可能性というものは考えれば考えるほど無限にあり、だからこそ「なかった」ことを証明するのは極めて難しいのです。

 ということで、あれこれ後味の悪い詮索をするより、ちょっとネタも混ぜて検証するくらいのほうがいいのかな、とこんな記事を書いてみた次第です。

 その意味で秀逸だと感じたのが、「サイン盗む技術があれば15年間優勝しないなんてことは起きない」というタイガースファンのコメントです。さすが笑いの本場、関西のチームのファンだと思いつつ、サイン盗みどころかしばしば自分のチームのサインの伝達すらままならない某チームのファンとしては、別の意味で心にチクッと痛みが走りました。あ、だから22年間も優勝できていないのか……。

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