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“日本人みんなの父だった”88歳で亡くなった小林亜星さんの意外な功績

2021/06/18
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向田邦子さんも脱帽。寺内貫太郎の名演技

 なんといっても驚いたのは、TBS系往年の傑作ドラマ『寺内貫太郎一家』の主人公、老舗石材店の主人で、典型的な頑固親父の寺内貫太郎役だろう。当時小学2年生だった筆者は、芝居の良し悪しも満足に分からぬまま、「この人、なんかすごいな……」と肌で感じつつ毎週『貫太郎一家』を楽しみに観ていた。

小林亜星さん ©文藝春秋

 ある夜、いっしょに観ていた母がひと言。「この人、ホントは作曲家なんだよね」。「えっ!?」と驚いた私は瞬時に奇妙なデジャ・ビュ感に襲われた。いつもオープニングの「小林亜星」というクレジットが気になっていたからだ。「この名前どこかで……」と思ったらそう、先の『サリー』や『科学忍者隊ガッチャマン』(’72年)等々の主題歌や音楽欄でよく目にするお名前。「こんな人があのかっこよくってオシャレな歌をいっぱい作ってたんだ!?」と驚いた。

向田邦子さん ©文藝春秋

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 この驚きは決して間違ってはいなかったようで、『貫太郎一家』の原作者・脚本家である向田邦子さんは当初、小林亜星さんが実の父親をモデルにした貫太郎役を演じると聞き、「父のイメージとかけ離れすぎ。父がかわいそう」と漏らしたそうだ。ところが実際のドラマを観て、その思いは消し飛んだという。そこには、頑固者でまるで融通が利かないながらも、誰よりも家族を愛し、誰にも温かく接する亡き父親の面影が見事に宿っていた。向田さんは亜星さんを抜擢した久世光彦プロデューサーの慧眼に感服し、以後、プロデューサー(番組スタッフ)のキャスティングには信頼する姿勢を貫いたという。