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小島秀夫が観た『ブレードランナー2049』

小島秀夫が観た『ブレードランナー2049』

ブレードランナーは“ユニバース”の夢を見るか?

2017/10/29

genre : エンタメ, 映画

note

 映画には、決して触れてはいけない領域に存在する、伝説の傑作がある。

 それらは、安易な続編やリブートを許さず、特別な地位にとどまって、後続の作品やカルチャーに影響を与え続ける。

『ブレードランナー』は、そんな伝説的な作品のひとつである。

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「ブレラン」の洗礼を受けた人間は、それ以前にはもう戻れない

 1982年に公開されたこの作品は、その斬新なビジュアル、美学、テーマによってカルト化し、多くのフォロワーを生んだ。ハイテクとデッドテックが混在したレトロフューチャーな舞台設定、自己と他者、虚構と現実が曖昧になった世界での聖杯探求、エンタテインメントによって「人間とは何か」という哲学的なテーマを語ること。映画、アニメ、ゲーム、音楽、小説といった表現ジャンルだけでなく、ファッションなど、あらゆるカルチャーに影響を与えた。

「ブレラン」の洗礼を受けた人間は、それ以前にはもう戻れない。それほどのインパクトをもたらした「ブレラン」は、永遠の存在なのだ。

 だから、影響を受けた作品がつくられることはあっても、「ブレラン」そのものの続編やリブートがつくられることはない。もう一度『ブレードランナー』をつくる必要も意味もない。誰もがそう思っていた。私もそう思っていた一人だ。

『ブレードランナー2049』より

 だから続編の企画が動いている、という話を耳にした時は、心底驚いた。誰がやっても成功するとは思えなかった。ハリウッドの“ユニバース化”戦略にこの傑作も飲み込まれてしまうのか、と懸念した。何よりも「ブレラン」の神話が汚されることを危惧した。

 しかし、この蛮行に挑もうとするのが大好きなドゥニ・ヴィルヌーヴだと知って、気持ちは揺らいだ。『灼熱の魂』『プリズナーズ』『複製された男』と、傑作を連発していた天才監督がオファーを受けたのだ。だが、期待する一方で、不安は消えなかった。

完成した『ブレードランナー2049』を観るまで、それは変わらなかった。