文春オンライン

「好きを仕事に」で生まれるブラックな過重労働は「悪」と断罪できるのか

NHK女性記者の過労死報道から1ヶ月。君たちはどう稼ぐか

2017/11/10
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夜業界でワーカホリック状態の女の子は「給料=成果」派

 収入についての感覚が仕事への姿勢を分けるのは何も、いかにも自己実現的な現場や職種に限った話ではない。私が新聞社の前に勤めていた夜業界というのは、とくダネをとったり上司の機嫌を窺ったりして評価査定をあげて花形部署に異動して論説委員や部長の席を狙う新聞記者なんかよりもずっと直接的にずっと露骨に出来高による収入格差と成績ランキングが可視化される場所だった。そして過度なワーカホリック状態になる女の子たちが持っているのはまさに給料を成果ととる思考回路だ。

 彼女たちの論理では当然、美人で気が利く巨乳の若い娘、がより多く稼げる。逆に言えば稼いだ金額が、自分の女としての価値であると見紛うようなシステムがそこにある。そして、幸福なことに、あるいは大変不幸なことに、それほど美人でもなく機転も利かず貧乳で年増であっても、労働時間を増やすことで収入をある程度補填できる。彼女たちにとって稼いだ金額は、時に自分の常軌を逸した頑張りの結果でもあるが、その過程を無視すれば、それはそのまま自分が良い女であるという証明にもなる。

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 夜業界の女の子たちが競ってホストクラブで死ぬほどまずいスパークリング酒に高額を使うのは、お金が使えるということは稼げるということであり、稼げるということは自分がスペックの高い良い女であるという誇りに直結しているからだ。そして彼女たちはあたかも自分は寝ずに節約を重ねて過度な出勤と長い労働時間によって稼いでいるのではなく、良い女だから簡単に稼げているように振る舞う。そうでなければすぐさま「鬼出勤してまでホスト通い乙www」なんて不名誉な噂を立てられる。

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「指名本数を少なく、客単価を上げる」派の嬢たちも

「大して働いてないよ」というそれはもちろん、他人に対してのポーズでもある。しかし彼女たちを見ていると、あくまで装いだったその姿勢をいつしか内面化し、自分でもどこかしら過重労働の実態を意識的に忘却し、売れっ子だからかわいいから色っぽいから稼いでいると信じ込むようなところまで見え隠れする。そして他人に対しても自分に対してもそのポーズを裏切らない成果を上げるために、より一層過酷な労働環境に没入していく。

 と、書くといかにも蟹工船状態であくせくと働く姿が想像されるが、彼女たちの実態は内面的にも外見的にも大変華やかで充実したものである。夜業界においては忙しいということそれ自体が自分が個人的にある程度求められるような存在でない限り実現しないことであり、どんなに忙しくてもそれは自分の「売れっ子」っぷりを体現しているに過ぎないと思えてしまう。売れに売れているアイドル歌手の睡眠が2時間であるような事態と似ている。

 対極にはもちろん、いかに効率よく必要なぶんだけを稼ぐかを目的に、なんとか指名本数を少なく、客単価を上げようという思考の嬢たちもいる。彼女たちの場合は、稼いだ金額は見知らぬオヤジのちんぽをしゃぶる苦痛に見合うものであるべきで、ホストクラブで豪快に散財する同輩たちを見ても、「あんなにお金が使えるほど売れっ子の良い女なんだ」などとは思わず、「あのシャンパンタワーのために何本のちんぽをしゃぶったのだろう」と捉える。チップをくれる上客がいれば一本の稼ぎだけで勤務を終えるし、店を通さずにお金をくれるパパを見つければ平気で無断欠勤を続ける。