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原作者が語る、テレビ版『はいからさんが通る』が尻切れトンボで終わった理由

大和和紀――クローズアップ

2017/11/09
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 少女漫画の金字塔『はいからさんが通る』が劇場版アニメとして帰ってくる。お転婆娘のヒロイン、花村紅緒が大正時代を舞台に駆け抜ける恋と成長の物語。累計売上1200万部を超え、今なお読み継がれる名作だ。原作者・大和和紀さんも昨年画業50周年を迎え、満を持しての劇場公開となるが、実は『はいからさん』のアニメには隠された歴史があるそうだ。

「1978年6月から翌年の3月まで放映されていたテレビ版は、尻切れトンボで終わってるんです。打ち切りと言われているけど、本当は80年のモスクワ五輪(のち、日本は不参加)の生中継がアニメの時間枠に決まっちゃって。当時、私は製作にタッチしてないのに、『あと3回分しか続けられません、どうしましょう』と相談されましてね。放映時点での物語は原作の半ば、ミハイロフ侯爵が現れたところ。あれじゃいくら原作者でもまとめようがなかった(笑)。以来、製作元の日本アニメーションさんが気にかけてくださっていて、是非完結させたいというお話が来たんです」

『はいからさん』で大正期を描く大和さんは、デビュー前から歴史ものが好きだった。

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「高校1年の時に初めて描いた漫画が忍者もの。同級生が回し読みして最初は好評だったんだけど、男子趣味が強くて飽きられてね(笑)。慌てて宝塚歌劇団のテレビ中継を観てキラキラした世界を描いたら、今度はウケてホッとしました。プロになって好きな歴史ものに初挑戦したのが平安時代を舞台にした『ラブパック』(73年)。当時はラブコメ全盛で、史劇はとっつきにくいジャンルでした。だけど『源氏物語』などの古典や歴史小説が大好きだから、編集者にお願いしたの。これが好評だったお陰で明治時代を描いた伝記『レディーミツコ』(75年)や『はいからさん』へと続いたんです。史実の間をドラマで埋めるのは楽しい作業。『イシュタルの娘~小野於通伝~』も私が好きな武将を全部描きたい、から始まったんです(笑)」

劇場版『はいからさんが通る 前編 ~紅緒、花の17歳~』

『はいからさん』ファンは今や親子2世代に及ぶ。劇場アニメ公開を控え、大和さんはその魅力をどう考えているか。

「紅緒はお転婆娘だけど、それだけでは面白くないので酒乱に設定したんです。当時の担当者の酒癖がかなり参考になりました(笑)。物語では、紅緒は恋愛や社会経験を通じて成長していきます。主人公が成長していくのが、少女漫画というものなんです。そのテーマが“初恋の成就”という普遍的なものであったからこそ、息長く読まれているのかな。今回の映画は絵柄は今様ですが、原作に忠実ですぐに内容に入っていけるはず。2世代と言わず3世代で是非、観に来てね!」

やまとわき/1948年、北海道生まれ。北星学園大学短期大学部卒業。短大1年生時の66年、「週刊少女フレンド」(講談社)に掲載の「どろぼう天使」で読み切りデビュー。77年、『はいからさんが通る』で講談社漫画賞少女部門受賞。代表作は他に『あさきゆめみし』『ヨコハマ物語』『KILLA』など。

INFORMATION

劇場版『はいからさんが通る 前編 ~紅緒、花の17歳~』
11月11日(土)より公開
http://haikarasan.net/

 取材・構成: 岸川真

原作者が語る、テレビ版『はいからさんが通る』が尻切れトンボで終わった理由

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