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“逆らう奴はクビを切るぞ” 「コネクティングカップル」の張本人を復活起用…菅義偉“強権人事”の思惑は何だったのか

『墜落 「官邸一強支配」はなぜ崩れたのか』より #1

2021/09/28

source : ノンフィクション出版

genre : ニュース, 社会, 政治, 読書

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毎日繰り返される「御前報告」

 ところが、菅政権誕生の流れができると、和泉、大坪のコネクティングカップルもまた、そこに乗って復権する。安倍側近グループが失墜するなか、やがて和泉は、「ワクチン」「アビガン」「PCR検査」というコロナウイルス対策三点セットの政策を差配するようになる。厚労省のある官僚に聞くと、20年の7月以降、厚労省の担当官僚たちが毎日のように資料を抱え“和泉詣”を繰り返してきたという。まずはコロナの感染状況を和泉に報告しなければならない、と首相補佐官室に日参した。

©iStock.com

 厚労官僚たちはそれを「御前報告」と揶揄した。安倍政権末期には日々の首相ブリーフィングと同じくらいの回数におよんだ。まるで菅政権誕生に向けてレールが敷かれ、菅グループの官邸官僚たちが、今井たちにとって代わっていったように見えたという。

 実際、新政権ができると、和泉は今井と同じく首相補佐官と政務秘書官を兼務するのではないか、とも噂された。さすがに今井の独善的なイメージと重なるのを避けたのか、菅は和泉を政務秘書官に置かず、菅事務所の秘書である若い新田章文が任ぜられた。したがって和泉自身は首相補佐官のまま横滑りの再任となった。もっとも新田では他の事務秘書官を束ねられない。必然的に和泉の存在感が増した。

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 ちなみに6月19日に開かれた「健康・医療戦略推進専門調査会」では、室長の和泉が会議を取り仕切り、ちゃっかり大坪も、厚労省大臣官房審議官としてコロナ対策に復帰している。大坪は8月の定期異動で、厚労省子ども家庭局のナンバー2である審議官に横滑りしたが、そこもまた重要ポストだ。

 一見目立たない部署に思える子ども家庭局は、菅が自民党総裁選のときにとつぜん少子化対策として掲げた「不妊治療の保険適用」を担う。首相の肝煎り政策だ。和泉と同じように彼女もまた、間もなく政権中枢に舞い戻った。

【後編を読む】菅政権の肝いり施策は「誰かが言っていたもの」ばかり…背後にいた“謎の外国人”と“大物金融ブローカー”とは

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