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専門家約800人の研究でわかった異常気象のリアル…日本企業が“カーボンニュートラル”実現を目指す“本当の意味”

『グリーン・ジャイアント 脱炭素ビジネスが世界経済を動かす』より #1

2021/10/05

source : 文春新書

genre : ビジネス, 国際, サイエンス, テクノロジー, 企業, 経済

note

0.5℃の差がこれからの気候変動の明暗を分ける

 ちなみに、パリ協定では平均気温の上昇抑制を「2℃、できれば1.5℃」としていたが、今の世界のリーダー層は明確に「1.5℃」をターゲットにし始めている。気候学者の研究によると、この0.5℃が大きな差を生み出すとみられているからだ。第5次評価報告書に主執筆者の一人として参加した国立環境研究所の江守正多は筆者らの取材に対し、こう解説している。

写真はイメージです ©iStock.com

「1.5℃上昇したときに、何か急激に変わったり、世界が破滅したりする、というわけではありません。ですが、今すでに起き始めているさまざまな気候変動の悪影響が、さらに大きくなっていくことは確かです。ここ数年、豪雨や台風で大きな被害が相次いでいますが、あれ自体は不規則な気候変動の中で、たまたま起きたことではあります。しかし、温暖化によって水蒸気の量が増えれば、さらにパワーアップしたものが来ることになる。このように、温暖化する分だけ、気象現象の悪影響が大きくなるということは、確実に言えます。

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 これが2℃の上昇となると、話が変わってきます。実は、1.5℃の時とは違って、2℃上昇すると極端に気候が変化してしまうのではないか、という科学的な議論が存在しているのです。正確に2℃かは分からないのですが、我々の分野では、その変わり目のことを『ティッピングポイント』と呼びます。ティッピングポイントというのは、臨界点のような、スイッチが入るポイントのことです。温度はゆっくりゆっくり上がっているんだけども、影響の出方がガラッと変わるような。そうなってしまえば、いくらその後に温暖化を止め、気温が上昇しなくなったとしても、氷は解け続ける。そのような“スイッチ”が入ってしまう恐れがあります」