ドラフト会議がもう鼻先まで近づいている。新芽のような爽やかな匂いが鼻腔をくすぐってくる。かれこれ1週間くらい、胸が躍り続けている。
2021年のドラフト戦線の行方は、非常に読みにくい。なぜなら、現時点(10月7日)で1位指名を公言する球団が1つもないからだ。
巨人の場合、ドラフト1位、2位で投手を指名することを明言している。今年のドラフト市場が「投高打低」の傾向にある背景に加え、投手陣の底上げを図りたい編成陣の思惑が透けて見える。そこで2021年の巨人のドラフト1位、2位をさまざまな観点から予想してみた。さらには、僭越ながら私のオススメ選手も挙げさせてもらいたい。
小園ではなく、あえて森木を推したい
近年の巨人のドラフトを表現するなら「我慢と投資」というフレーズがしっくりくる。
まず「我慢」は5年連続で1位入札のくじを外してきた苦い歴史を指す。しかも2016~2019年の4年間に至っては、2回続けて重複1位入札を外す悪運ぶり。
ただ、これは巨人が大物ドラフト候補から逃げなかった証拠でもある。宝くじは買わなければ当たらない。そろそろ高配当を手にする瞬間が訪れなければ、確率的におかしい。むしろ、今年も1位でスター候補に突っ込むべきだ。
今年のドラフト1位候補は、高校生なら小園健太(市和歌山)、森木大智(高知)、風間球打(ノースアジア大明桜)の右腕3人。大学生なら隅田知一郎(西日本工業大)、佐藤隼輔(筑波大)などの左腕が挙がる。
とくに巨人が好みそうなのは、小園と森木の2人である。ともに投手としての総合力が高い、正統的な右投手だ。
2年前のドラフト会議で巨人は大船渡・佐々木朗希(現ロッテ)ではなく、星稜・奥川恭伸(現ヤクルト)を1位入札している。タイプ的に風間は佐々木に近く、小園と森木は奥川に近い。
2018年秋の原辰徳監督の三次政権誕生以降、巨人のドラフトでは指揮官の意向が強く働いている。原監督がスカウト陣に出すリクエストは「プレーにカドがない選手」だという。なめらかな動きをする選手を好む傾向があるのだ。そこへ目玉格で攻める近年の巨人の指名傾向を加味すると、小園と森木が有力だろう。
小園はコントロールに優れ、カットボール、ツーシームなど細かな変化球も扱える。「プロでも早い段階で1軍戦力になれる」と語るスカウトもいる実力派だ。あとはボールに強さが出てくれば、難攻不落の投手になる。安心して次代のエース候補を任せられるだろう。
ただし、個人的に巨人の1位指名候補としてプッシュしたいのは森木である。
森木は3年間で一度も甲子園に出られなかったため、その力を満天下でアピールできなかった。とはいえ、中学3年夏に軟式球で最速150キロをマークしたニュースを記憶するファンも多いに違いない。
私は森木が中学3年生だった4月、雑誌『中学野球太郎』の企画で対戦させてもらったことがある。当時、最速146キロだった森木は、4打席を終えた時点で私から三振を奪えなかったことが相当悔しかったようだ。5打席目は闘志むき出しの「オールストレート勝負」を挑んできた。最後に私のバットが空を切った瞬間、高知中のスピードガンは「148」という数字を叩き出した。打者に向かってホップしてくるような強烈なストレートを思い出すだけで、今でも手汗がにじむ。
そして私の心を揺さぶったのは、対戦後に森木が放ったこんな言葉だった。
「子どもたちから『森木のようになりたい』と思ってもらえる選手になりたい。僕を見て野球を始める子どもを増やすのが目標です」
この選手は自分の宿命を知っている。そう思わずにはいられなかった。過信でも驕りでもなく、森木は自分の可能性を知っていた。誰よりも自分自身に期待していた。だからこんなスケールの大きな発言が生まれたのだろう。
この夏、高知で久しぶりに森木の投球を見た。最速154キロまで増速したストレートはさらにキレを増し、変化球の精度も高まっていた。それでも、本人が「克服していかなければならない弱点がたくさんある」と反省するように、随所に甘さも目立った。中学時代の実績から早熟に見られがちだが、実は伸びしろもたっぷりと残しているのだ。
心技体のスケールを併せ持つ森木こそ、巨人のようなチームのドラフト1位にふさわしいのではないか。