10万部を超えるベストセラー『藝人春秋』から5年、待望の刊行となる水道橋博士の『藝人春秋2』は、上下巻合わせて700ページという大作である。前作より分量も内容もはるかにパワーアップし、橋下徹、タモリといった政界から芸能界にかけての大物の「素顔」を暴く。その元になった作品といえるのが、浅草キッド名義で刊行された『お笑い 男の星座』シリーズ(全2巻)。本書には『藝人春秋2』に出てくる石原慎太郎、寺門ジモンといった人物も登場している。このたび『藝人春秋2』刊行を記念して、『お笑い 男の星座』も同時に電子書籍化、本シリーズを「日本ノンフィクションの最高峰」と崇める中川淳一郎さんが熱狂的に解説する。『藝人春秋2』をより楽しむための必読サブテキスト。

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『合本 お笑い 男の星座 芸能私闘編・私情最強編』(浅草キッド 著)

 日本のノンフィクションにおける最高峰は何か、と聞かれたならばオレは『お笑い 男の星座』を挙げる。これを言うと「ノンフィクション作家といえば、開高健とか辺見庸とかでしょ! 大宅壮一とか佐野眞一もすごいよね。なんで浅草キッドなの?」なんてことを言われてしまう。

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 何を言っておるのだ!

 この物語は実話である――。

『お笑い 男の星座』に時々登場するこのフレーズに込められた浅草キッドの迫力をナメんじゃねぇ。芸人が日々の本業をする中で出会った怪しい人々に食い込み、その人々を過度に褒め殺しのごとく持ち上げ、余計なことまで喋らせて秀逸過ぎるエピソードをバシバシと取っていくその「食い込み力」(股じゃねぇぞ)は並のノンフィクション作家のレベルではない。

 そしてその書かれた相手からも特に恨まれるようなこともなければ、〈正直言って、ダチョウで一番の常識人は上島竜兵こと竜ちゃんなのである〉という意外過ぎる真実を読者に突きつける。「自称最強! 寺門ジモン」では、「オッ俺」「ダッだから」と忠実に寺門ジモンの喋りを再現する。こういった高度な技を見せつつ彼の秘めたる内なる狂気と倒錯性をあぶりだすとともに、一見まともなリーダー・肥後克広がイチローのことを知らず、居酒屋のマスターの息子だと結論付けて頭を撫でたことがある、というお笑い業界に永遠に残るキラ星のごとき珍エピソードを獲得する。

 さらには城南電機・宮路年雄社長や「白色彗星」こと鈴木その子といった傑物というか怪物を手なずけその偉人っぷりを我々読者に知らしめるこの筆達者ぶりは一体なんだ! 当時オレは番組を見てゲラゲラ笑っていたが、浅草キッドが書くその裏事情の方がもっと面白いじゃねえか、この野郎! と思ったことから、「日本のノンフィクションにおける最高峰」と勝手に断言したのである。

 ただし、「爆笑問題問題」に登場する肝臓腎臓移植芸人・ハギこと萩原正人が死にかけたエピソードについては若干の誇張があるかもしれない。病室で仇敵太田光と博士が乱闘し、ハギの身体から文字通り生命線たる点滴のチューブが外れ、人工呼吸器まで外れた末に三途の川から復帰したという件だが、ハギ氏当人に確認したところ、「少し盛ってるね。オレはあれ読んで笑ったよ」と言っていた。そして「オレはあの二人が出くわすことを一番心配していたんだ。だから、あり得ないツーショットを見て驚いた。とにかくあの場は気まずかったけど、一番気まずかったのはオレだよ!」と語っていた。

 だが、これは些細なことである。プロレスラーというものは、幻想によって成り立っているところがあるわけで、『お笑い 男の星座』に流れる梶原一騎イズムにおいて、多少の「やや誇張された伝説」「怪しげな逸話」は男の生き様において失ってはいけないものである。

 大体、昭和の時代には「正体不明・謎のマスクマン」といった触れこみのレスラーが次々と来日していたが、「お前、入国審査通ってるだろ!」「お前、パスポート持っているだろ!」と突っ込みを入れたくなる気持ちは押さえなくてはいけないのである。そのレスラーはあくまでも正体不明な謎の男なのだ。そして、アンドレ・ザ・ジャイアントがあまりにも背が大きすぎてホテルの廊下の梁に頭をぶつけたところ、梁のその部分が破壊されアンドレの頭の形が残ってしまったやら、アンドレが牛を一頭食い尽くした、というダイダラボッチか八郎か三コか、といったエピソードだって“真実”なのである。

 こうした真実に迫りつつも、繰り出されるエピソードがことごとく面白くて笑え、時に泣けるというこの文才によって放たれた『お笑い 男の星座』。「インスタ映え」だのハロウィンでどれだけ目立つかに根性をかけている現代の軟弱な男どもが今こそ読むべき本なのである。一つ挙げれば「江頭グラン・ブルー」は超感動一大スペクタクルだぞ!

 今回の電子版刊行により、皆さんがエロいソフトタッチ愛撫の如き指の動きを一日中し続ける大好きなスマホやらタブレットやらKindleでこの本を読めるようになったことを感謝せい。時間泥棒の最たるものであるスマホゲームにて「ミッションクリアー」とか出てきては一喜一憂し、他人のどうでもいいケバケバしい色のケーキに「いいね!」を押す時間があるのであれば、電子デバイスを使って『お笑い 男の星座』を読むことがあなたの人生にとっては108倍は有益な行為であるっ! とここに断言する次第である。

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