昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

過剰な「中国スゴイ」論に物申す スマホ決済、無人コンビニのトホホな現実

話題の「日本が中国に完敗」記事を中国ライターがマジメに語る(後篇)

2017/12/12

独自取材を堂々とパクる「意識高い系」の人たち

山谷 安田さんは三和については、ああいう場所があることを最初に発見して、現場に突撃したパイオニアなわけじゃないですか。そもそも三和ってどうやって見つけたんですか。

安田 中国人の友人から噂を聞いたんですよ。そこで、三和の住民たちのたまり場である百度掲示板の借金コミュとか龍華新区コミュをあさってQQ(チャット番号)をさらしているヤツを見つけて、本人にQQでアポ取って現地で待ち合わせて話を聞いて。あと、そいつらからもっとヤバい友達を紹介してもらって、彼らの行きつけのネカフェや女遊びをする先を教えてもらってさらに聞き込んで……と。

取材中にスマホを見せてくれた三和ゴッドの2人。中古市場で1000元で買ったとか。山谷撮影。

山谷 藤田祥平さんの例の記事って、別の人がこうやって時間とコストをかけた記事を後からつまみ食いして、自分だけがすごいものを見つけたように書いているわけです。なのに「そもそもこんな突撃取材ができるのは、私が20代で、失うものが少ないからだ」みたいな書き方をされて、正直ムカつきませんでした?

安田 全然ムカついてないですよ。むしろ嬉しい。

山谷 アイドルのインタビューみたいな答えじゃなくて、本音を遠慮なくどうぞ。

安田 いや、カマトト抜きです。ああいうふうに書かれる気持ちはわかるんですよ。自分の話ですが、実は僕も書籍デビューするずっと前の2008年に、刊行3号で潰れた超マイナーな雑誌で中朝国境取材をやったことがあるんです。15日間の取材費として航空券代込みでたった8万円だけ渡されて、26歳で生まれて初めて海外取材をしたんですが。

山谷 そういや、僕も最初の記事を書いたのは26歳だ(笑)。

安田 で、当時の僕は中朝国境分野の第一人者のジャーナリストの石丸次郎さんの本をめっちゃ読んで、行き先もほとんどトレースしたんですけど、記事中では一切言及しなくてご本人にコメント取りにも行かなかったんですよね。今としては石丸さんにごめんなさいとしか言えないんですが。

山谷 それはひどいですね。僕はそういうのないなあ。誰もやってないことしか興味がないので。中国の山寨機(パチモノ携帯)とかウズベキスタンのIT事情とかそういうのしか。

安田 山谷さんは中国ジャーナリズムの極北点にいる奇人ですから……。ともかく当時の僕の心理としては、自分は経験値が足りなくてゼロから取材先を開拓するスキルはないんだけど、ずっと遠い先に先人がいるのは悔しくて、さんざん参考にしているのにその存在は認めたくない的な気持ちがあったんですよ。で、今回自分がいざ逆の立場になってですね。「俺、えらい出世したやんけ」と。正直めちゃくちゃ嬉しい。

山谷 そういう考えもあるんですか。僕は自分の書いた記事を、今回の安田さんの件みたいに中国に詳しくない人から堂々とパクられて「自分が最初に知った」「自分はこの分野に日本一詳しい」みたいにドヤ顔で紹介されることが多くて、そのたびに腹が立っているんですが。

安田 意識高い系のビジネスの人たちですね。微博(中国版ツイッター)が流行ったら微博の自称第一人者、タオバオ(EC)が流行ったらタオバオの自称第一人者、シェアエコが流行ったらシェアエコの自称第一人者……みたいな。で、山谷さんが2年くらい前に書いた記事をパクって講演や情報商材で●●万円儲けるような人たち(笑)。

山谷 ですよ。しかもただパクるだけじゃなくて、ご本人が独自に入れてみた情報が大間違いで、なのにその記事が広く読まれたりして。自分が最初に発掘したものを無に戻されて、クオリティの低いもので上書きされるのがすごく悔しいわけです。

ライター業界という「過疎の村の青年団」

安田 まあ、僕もそういう薄っぺらいビジネス系の人たちにカネ儲け目的でやられたら、ガチギレして木刀を片手に校舎裏へ呼び出しますよ。でも、若くてかつ同業者の人だったら別になあ……。

 いまって若いライターが少なくて、2002年デビューの山谷さんや2010年デビューの僕が、ずっと「若手」とか「新世代」扱いでしょう。なんだか業界全体が「50歳になっても最年少メンバー」という過疎の村の青年団みたいですし、未来のためには若い人を大事にしたほうがいいと思うんですよね。

山谷 それはわかりますが、藤田さんの当該の記事はひどい。先行業績のつまみ食いに加えて、事実関係は間違えているし、話の飛躍が多いし、ちょっとポエム感がありすぎるでしょう。商業ベースの報道記事で、正直あれは「ない」です。

安田 随筆として読めば「若い子が(多分はじめて)海外行った!」的なフレッシュ感が溢れている感じが、荒削りすぎる部分も含めて僕は好きですけどね。例えるなら、北方謙三さんから「ソープに行け」とアドバイスされた悩める青年が、お店に行った次の日から「女の本質はこれだった!」みたいに壮大な人生哲学を突然語りはじめる的なノリ。

山谷 あまずっぱすぎる。

安田 ちなみに僕も今年、はじめてアメリカに行ったんですけど、現地で超ウキウキだったんですよ。5日間ニューヨークにいただけ、しかも米国自然史博物館で恐竜化石を見た以外は、中国人としか会ってないんですが。それでも「アメリカの真実とは~」とか、実はすげえドヤ顔で文章をものしたい欲望を心のなかで押さえ込んでいる。

山谷 海外中二病だ(笑)。実際にやったら間違いなくアメリカ屋の人たちが激怒して大炎上ですよ。