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無職で独身、アフロの元朝日女性記者がすすめる「1食200円、調理10分ごはん」

著者は語る 『もうレシピ本はいらない』(稲垣えみ子 著)

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『もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓』(稲垣えみ子 著)

「毎日同じメニューなのに走って家に帰るほど待ち遠しい」料理ってどんなものだろう? しかも、その結果、「食生活にかけるお金は天文学的に低くなった」とある。1食200円かからない献立。表紙の稲垣さんの絵は、レシピ本を捨てている。

「私もずっとそうだったんですが、みんなレシピ本を見ながら本当に一生懸命料理を作ってます。その結果、料理に追い詰められて苦しくなる人がいる。レシピを見て毎日違うものを作って食べるのが豊かさの証だと思いこんでいるからです。でもレシピを基にした和洋中の料理が食卓に並ぶようになったのは、考えてみれば私の母世代から。その前はレシピなどなかった。明治生まれの祖母は、味見しながら煮物とか適当に作っていましたから」

 稲垣さんが提案するメニューは、一汁一菜。鍋で炊くごはん(3日に1度だけ)。出汁をとらず、味噌を溶きいれる味噌汁。そして、焼くだけ煮るだけのおかずに漬物を加える。今日は何を作ろうかなと考える時間はゼロ。調理時間は10分もかからない。味噌汁に干し野菜を入れることで、出汁と具を兼ねるなど手間とお金をかけない一工夫が紹介され、料理の写真はどれも健康的で実に美味しそうだ。

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いながきえみこ/1965年愛知県生まれ。一橋大学社会学部卒。朝日新聞社入社。大阪本社社会部、週刊朝日編集部などを経て、論説委員、編集委員をつとめ、2016年1月退社。夫なし、子なし、冷蔵庫なし。他の著書に『魂の退社』、『寂しい生活』などがある。

「実はずっと派手な食事が大好きだったんですが、震災を機に節電にはまり、とうとう冷蔵庫をやめた結果、止むに止まれず江戸時代の食生活を始めた。そしたらこれがいいことだらけ。日本は高温多湿で食べ物が腐りやすいのですが、ぬか漬けは、そんな環境で一番楽で合理的。炊いたごはんはお櫃(ひつ)で保存すれば3日はもちます。1日目は炊き立てを、2日目は混ぜご飯、3日目はおじやにしておいしく食べきります」

 安価で簡単な献立は、これからの厳しい世の中を生き抜く力にもなる。

「新聞記者時代に日本初の男性家庭科教師を取材しました。元は英語教師だった彼は教育困難校で教えるうちに、『勉強ができないのはやる気の問題ではなく、生活の問題だ』と気づいたと言います。生徒自身が自分でごはんを炊けたら生活も学力も変わるはずだと、一念発起して彼は家庭科の教師になった。確かにおいしいごはんを作って食べる力があれば、人はどんな環境でもちゃんと生きられると思うのです」

 本書の調理アイデアは、誰にでも簡単に実践できる。たとえ保護者が料理を作ってくれなかったとしても、老いて調理をしてくれる配偶者を失ったとしても、自分で自分のためにおいしいごはんを作ることができれば、生活を崩さず前を向いて生きていけるのだ。

『もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓』

元朝日新聞論説委員、アフロで無職で独身、稲垣えみ子が驚きの食生活を大公開。会社を辞めても、1食200円で、十分食っていける。冷蔵庫なし、ガスコンロは1口、それでもできる献立とは? レシピ本不要、作り置き不要、準備は10分でOK。シンプルが一番の贅沢と唱える、料理の常識に一石を投じる実用エッセイ。

もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓

稲垣えみ子(著)

マガジンハウス
2017年9月7日 発売

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無職で独身、アフロの元朝日女性記者がすすめる「1食200円、調理10分ごはん」

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