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政治エリートから黙殺される「泡沫候補」を追いかける理由

常井健一が『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』(畠山理仁 著)を読む

2017/12/24
『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』(畠山理仁 著)

 政治家が嘯(うそぶ)く「希望」にうんざりした一年だった。衆院選の投票率は戦後で二番目に低かった。ある民放局では開票特番にかける予算と人員を減らした。

 もはやオワコンになりつつある選挙という仕組みが国民の希望を失望に変えている。本書はそんな悪循環を食い止めようと、その出発点を愚直に探った。

 著者の畠山理仁(44)は二十年間、政治家を主な取材対象としてきた。ただし、彼にとっての現場とは赤絨毯の敷かれた永田町ではない。大物御用達の料亭やクラブがひしめく繁華街でもない。選挙中にあらゆるストリートで繰り広げられる街頭演説の会場だ。

 しかも、畠山が追いかけてきたのは誰もが知っている政治家ではない。政党や組織の後ろ盾も受けずに徒手空拳で立候補した無名の新人。新聞やテレビの記者たちには「泡沫候補」と揶揄され、政治エリートから黙殺されてきた候補者たちの主張に耳を傾けてきた。

 畠山は彼ら彼女らを「無頼系独立候補」と呼ぶ。政治報道の表現としてはちょっと大げさな感じもするが、オリジナルの造語が作れるのは取材対象の生き様にとことん向き合った証しだ。

 奇抜な衣装を纏(まと)い、絶叫しながら乱舞する候補者たちがキワモノ扱いされる現実を真正面から受け止めつつ、そう演出せざるを得ない選挙制度の欠陥を炙り出す。それでいて、いつも浮かばれない無頼系をほどよい力加減で突き放す。

 そんな荒業を難なくやってのけるのは、世間の侮蔑にもめげずに自説を訴え、何度負けても同じ挑戦を続けてしまう不器用な姿勢が、著者自身の境遇と重なるからだろう。だから、マスメディアの編集幹部が唾棄するような「お金にならないテーマ」でも、実に二十年もの間ひたむきに追えた。

 人生百年時代のこんにち、フリーランスの立場で永田町を主戦場とする物書きはオールドメディア出身のお歴々ばかり。還暦を超えたおじさまがセピア色の武勇伝を振りかざし、誰もが知っている若き選良までもがその御宣託を崇め奉る。

 一方、30~40代で政界をうろつく無頼系独立ライターは片手で余るほどしかいない。私奴もその一人だ。畠山ほどの筆力があっても記者会見にすら入れない無念さはもちろん、原稿料の明細から晩飯のおかずまで手に取るようにわかる。だから思う。言論界の冷たさがこの大作を生んだ、と。

 愉快な新規参入者が現れる選挙のほうが、ジャーナリズムよりもよっぽど大らかで多彩な世界じゃないか。畠山の分身たちの奮闘記を読み終えたら、政治への希望がちょっぴり湧いた。

はたけやまみちよし/1973年、愛知県生まれ。早稲田大学第一文学部在学中の93年より雑誌を中心に取材・執筆活動を開始。テーマは政治家と選挙。本書は第15回開高健ノンフィクション賞受賞作。他の著書に、『記者会見ゲリラ戦記』、『領土問題、私はこう考える!』。

とこいけんいち/1979年茨城県生まれ。ノンフィクションライター。著書に『小泉純一郎独白』、『決断のとき』(来春発売)など。

黙殺 報じられない“無頼系独立候補"たちの戦い

畠山 理仁(著)

集英社
2017年11月24日 発売

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