稲田朋美 防衛相
「防衛省・自衛隊、防衛相、自民党としてもお願いしたいと、このように思っているところだ」

毎日新聞 6月27日

稲田朋美防衛相 ©石川啓次/文藝春秋

 名言、珍言、問題発言で1週間を振り返る。日本中が驚いた問題発言が飛び出した。稲田朋美防衛相は、27日に都内で行われた都議選の自民党候補を応援する集会で「防衛省・自衛隊、防衛相、自民党としても(自民党候補への投票を)お願いしたいと、このように思っているところだ」と訴えた。あー、もうめちゃくちゃだよ。

 自衛隊には厳密な政治的中立性が求められる。政治活動と自衛隊の分離は「シビリアンコントロール」(文民統制)の基本でもあり、自衛隊法第61条は隊員の政治的行為を制限している。また、公職選挙法は第136条の2で公務員の地位を利用した選挙活動を禁止している。閣僚が選挙応援に行く場合は、地位を離れた形で行わなければならない。

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 早稲田大学の水島朝穂教授(憲法学)は、「稲田氏は『防衛省、自衛隊、防衛大臣、自民党』と立場を並べて話しており、自衛隊をまるで政党の手段のように語った。中国や北朝鮮と同様、党の軍隊のような扱いと言っても過言ではない」(毎日新聞 6月30日)と批判した。自衛隊は自民党の軍隊なのか? そんなわけがない。しかし、稲田氏の発言はそう読み取ることもできる。まさに「自衛隊組織の根幹を揺るがしかねない」(毎日新聞 6月30日)ものだ。

 27日夜、稲田防衛相は「誤解を招きかねない発言があった」と即刻発言を撤回。「これからも職務を全うしたい」と述べて辞任は否定した(FNN 6月27日)。

「安定のガースー」的に言えば「辞任にはあたらない」

 菅義偉官房長官は28日午前の記者会見で「大臣は自身の発言に関し、昨夜の会見でしっかりと説明した」と強調し、安倍首相からも稲田氏を続投させるよう指示があったと認めた上で辞任の必要はないとの認識を示している(朝日新聞 6月28日)。「安定のガースー」的に言えば「辞任にはあたらない」だろうか。安倍首相は野党4党からの罷免要求をあっさり拒否し、野党が求める臨時国会の早期招集にも応じない方針を決めている。国会で野党に追及の場を与えないということだろう。「真摯に説明責任を果たしていく」と安倍首相が記者会見で発言してから、まだ10日しか経っていない。

安定のガースー ©JMPA

 まもなく投開票日が迫った都議選を戦う自民党への影響は必至だ。産経新聞は、稲田氏の問題発言、加計学園問題、豊田真由子衆院議員の暴行問題の3つを自民党の“三重苦”と表現した(6月28日)。稲田発言によって自民党が都議選で負けるのはまぁ別にどうでもいいのだが、自衛隊員の士気が落ちてしまわないだろうか。そっちのほうが心配だ。とある自衛隊幹部は「全自衛官が自民党支持と誤解されてしまうのではないか」と落胆していたという(東京新聞 6月28日)。そもそも稲田氏は問題が多い。南スーダンでの国連平和維持活動(PKO)の日報問題や「教育勅語」発言、森友学園への関与の問題への批判もくすぶっている。

 下村博文自民都連会長は28日、稲田氏の問題発言を受けて世田谷区での演説でこのように語ったという。

「自民は5年間、政権を得たことで傲慢になっているのではないか。謙虚さが必要だ」(朝日新聞 6月29日)

 マジか。