日本文化の総合博覧会であるジャパンエキスポに25万人が集まり、漫画「ONE PIECE」の販売部数が累計3000万部を突破するなど、フランスはヨーロッパ随一のマンガ愛好国である。その中で、日本ではボーイズラブ(BL)と呼ばれる男性間の恋愛を描いたジャンルも着実に人気を拡大している。

 ヒット作の売れ行きは15万部を超え、BL専門のファンイベントも毎年のように開催されている。 とはいえ2013年には同性婚も合法化されているが、伝統的にはカトリックの国なので極右を中心に反同性愛運動も根強く存在する。その中でBLが定着した背景には、熱烈なBL愛好家たちの存在があった。

フランスでBL専門イベント「Y/CON」を主催しているヴァレンティーヌ・テジエさん

 パリ郊外・アルキュイユという街に住むヴァレンティーヌ・テジエさんは、フランスのBL業界(現地では「yaoi=やおい」と呼ばれることが多い)の有名人だ。「Y/CON」と呼ばれるBL専門イベントを2011年から主催している。現在32歳の彼女は、21歳でこのイベントを設立し、全く別ジャンルの会社も起業している。彼女のBL歴は17年におよび、出会いは15歳の時だったという。

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「初めてBLを読んだ時? それはもう『これなに最高、信じらんない!』っていう感じでしたよ。小さい頃からマンガは好きで『ドラゴンボール』とか『犬夜叉』を読んでいました。それで高校に入った頃に友達が成人向けのエッチな漫画を貸してくれて、それを私が気に入ったのを見て『これもどう?』とBLを勧めてくれたんです。今でも自分の一番好きなジャンルはBLです」

ジャパンエキスポ2022の様子。フランスでも少年ジャンプは大人気 ©時事通信社

 BLの魅力を尋ねると、登場人物や絵の美しさもさることながら、自分が「部外者」であることがポイントだという。

「私は女性なので、男同士の恋愛においては部外者です。だからこそ、まるで登場人物の女友達になって彼らを応援しているような気になる。ハッピーエンドの作品が多いのもいいですね」

 今ではフランスでもBLはジャンルとして定着しているが、17年前はまだマイナーで、ファンであることもあまり表立っては言いにくい雰囲気があったという。テジエさんも友人たちと学校でマンガの貸し借りをしていたが、BL作品は家だけで読むという友人もいたという。日本でも「腐女子は隠れろ論争」はいまだに存在するが、フランスでも事情は同じのようだ。