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鈴木 涼美
2018/01/19

童貞イジりツイート炎上問題で考える、童貞との向き合い方

人権の時代と「童貞」という名の権威主義

 #MeTooキャンペーンの加熱を受けて、セクハラ・パワハラを告発したブロガーのはあちゅうさん。その後、彼女が過去に「童貞」の男性をイジるようなツイートを繰り返し投稿していたことに批判が集まりました。鈴木涼美さんが「童貞との向き合い方」について考察します。

「童貞をディスりつつ討論に参加してください」

 昨年9月某日、「鈴木涼美さん、はじめまして!夜分恐れ入ります!47歳高齢童貞のHと申します!どうもお疲れ様です!」と、いや聞いてねえよ的な自己紹介で始まるメールが届き、10月後半に新宿ネイキッドロフトで開かれた「ヤサグレ童貞の夜」というイベントに登壇することになった。当日までのやり取りも、童貞っぽいという以外に何の形容のしようもない前のめり感と要領を得てない感とビックリマークの数の多さに慄きながら進めていたのだが、とにかく私に与えられたのは「童貞をディスりつつ討論に参加」してくださいという指示だけだった。世間で「ディスってはいけない童貞24時」が始まるつい2ヶ月前のことだ。

 イベント自体は壇上に出てきては尿道に詰まった自意識を吐露する童貞たちに私が「とりあえず吉原行ってから来てくれる?」とか適当に突っ込みつつ、一緒に登壇した女性漫画家の先生が救済措置を言い渡すという、極めてゆるい感じで進められたのだが、ここではそれは結構どうでもいいので割愛。とりあえず、世間には童貞をディスってもあまり怒られない人種とものすごく怒られる人種がいるらしい。

©iStock.com

「童貞をディスってはいけない」キャンペーンの発端は、広告代理店時代の上司のパワハラを告発したブロガー・作家による過去の童貞イジりのツイートが非難されたことである。ハリウッドで多数のセクハラ被害が発覚した「ワインスタイン事件」に始まる#MeToo運動が、フランスの大御所女優が違和感を示す文書を公表するほど異様な広がりを見せる中、日本の#MeTooは何だか全然関係ない「童貞をからかうのは人権侵害か」という問題の再設定をされてガラパゴス的に進化した。ミートゥーを凌駕するディーティー。

神扱いされている童貞本の古典『D.T.』

「童貞の気持ちを踏みにじり」「傷つけ」「バカにした」とされる件のツイートをいくつか見てみると、要するに童貞は内部に貯めたエネルギーのせいでものすごく良くいえば一般ピープルとは一線を画す並外れた想像力に溢れていて、それはからかうに値する、といった内容が多いのだが、面白いか面白くないかは別としてそれはこれまでの童貞語りの範疇を出るものとも言えない。童貞イジりを批判する意見の中で、対極的に神扱いされている童貞本の古典『D.T.』(みうらじゅん・伊集院光著、メディアファクトリー、2002/角川文庫版『DT』は2013)も基本的には童貞の尋常ならざる想像力や童貞の時にとったヘンテコな行動を崇めることでイジるといった内容で、件のツイートとものすごく方向性が違うかというと別にそんなことはない。