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東スポ「中日・岩瀬が日ハム移籍拒否」報道で考えたこと

文春野球コラム ウィンターリーグ2017

 大野奨太のFA補償が金銭で決着し、いささか意外だったのだ。経緯をたどると同選手のFA契約締結合意公示が昨年12月13日、ルールではそこから40日以内に補償内容を確定させる手筈だった。ファイターズは増井浩俊(オリックスへFA移籍)のケースと異なり、人的補償を求める方向と報じられた。同20日、吉村浩GMが中日から届いたプロテクトリストに関し、「ファイターズとしてインパクトのあるリストでした。検討する価値のあるものと考えています」と示唆したからだ。

 インパクトのあるリスト。

 僕のような長年の日ハムファンにとっては心躍るフレーズだった。うわ、誰かなぁと選手名鑑をひっぱり出して、検討を重ねた。知り合いの中日ファンに見解を尋ねたりもした。それが、松が取れ、仕事始めの週になってもなかなか発表にならない。自主トレのニュースが出始めた。僕は「大野 人的補償」と検索をかけるのが日課になってしまった。ここが確定しないと、日ハムも中日も今年のロースターが見えないのだ。

 それが1月14日、突然、金銭補償に落着する。吉村GMは「本日、中日ドラゴンズに対してFA移籍に伴う人的補償は求めないと回答しました。理由はお答えできない」とコメントを発する。ヤフーのトレンドワードに「キンセン選手」が上がった。結局、日ハムが求めたのは「キンセン選手」だった。僕らはすっかり拍子抜けだ。中日ファンの友人は「結局、中日には欲しい選手がいなかったってことですね」とホッとしつつも、軽く自虐していた。

東スポの「岩瀬移籍拒否」報道

 さて、大前提を言うと大野のFA移籍に関してはこれにて完了である。吉村GMの「理由はお答えできない」が意味深だけど、契約交渉の機微に関わることだ。言えないというならそれ以上のツッコミはできない。これでキャンプ入りのロースターは定まった。頭を切り替えよう。このメンバーで去年の大田泰示、松本剛のように飛び出すのは一体、誰だろう。

 と思っていたら17日、東スポの「岩瀬 ハムから補償指名あった」報道が出て、びっくり仰天した。舞台裏で日ハムは、何と岩瀬仁紀投手兼コーチを指名していたというのだ。岩瀬といえば中日の至宝である。にとどまらず球界のレジェンドといっていい。それが(おそらくは大ベテランであり、かつ兼任コーチであるところから)プロテクト洩れしており、ハム側が指名に踏み切ったのだという。ケースとしては馬原孝浩のオリックス入りを連想させた。

中日・岩瀬仁紀投手兼コーチ ©文藝春秋

 そして岩瀬は引退覚悟でこれを拒否したのだという。最終的には日ハムが折れて、金銭補償に方針転換したという記事だった。「デスクの目」という解説が添えてあって、「今回起きた『人的補償拒否問題』はFA移籍のシステムそのものを揺るがす重大な『あしき前例』となりかねない」と警鐘を鳴らしている。SNSはハチの巣をつついたような騒ぎになった。皆、判で押したように「ソースが東スポだが……」「東スポ一紙の報道だが……」とリテラシーを重んじ、批評的なテクスト読みをしているところが面白かった。東スポは教育的なメディアだなぁ。

 が、東スポは1面トップで思いきり弾ける代わりに、プロ野球や日本サッカー協会の人事といった奥のほうの記事では驚くほど本当のことが書いてあったりする。フツーのスポーツ紙は出入り禁止を食らうと仕事にならないが、東スポはたぶん怖くないのだ。岩瀬の一件は本当かもしれない。本当ではないかもしれない。僕にはまったく判断がつかない。これはあくまで交渉事だから双方、種明かしなどしないだろう。17日夕、中日・西山和夫球団代表が囲み取材に応じ、「誰がプロテクトに入って、誰をプロテクトしてなかったかは一切言えません。それと同時にこれは洩らしてはいけないこと。どこでそういう風にしてやったのか、書いたのか知らないけど一切言えない。コメントすらありません」としたのも道理なのだ。

 いや、だからこれは思考実験の類いだ。岩瀬仁紀がファイターズのリリーフ陣に加わっていたら、とんでもなくセンセーショナルだった。中日ファンは凹んだかもしれないが、もはや岩瀬は金田正一、米田哲也級の超越的ヒーローだ。「インパクト」どころの話じゃない。もちろん若手投手はどれだけ勉強になったかはかり知れない。

 率直に言って、(報道が真実なら)見たかったなぁと思う。が、そんなことはあってはならないという中日ファンの心情も痛いほどわかる。そして、大ベテラン&大功労者がプロテクト洩れしている場合、非常に厄介なことになるのも理解した。確かにそれで「引退覚悟の拒否」ということになったら、人的補償の制度そのものが形骸化してしまうだろう。

 ただこれはプロとプロとの交渉事なので、ルール違反だ何だと目くじらを立てて騒ぐことでもない。第一、僕らはルール違反が起きたかどうかさえ知り得ないのだ。結論は金銭補償で一件落着。これ以上の何もない。大人の世界はもっと機微があるものだろう。もし、東スポ報道が真実なら日ハムにとっては「貸し」だ。それはすぐ交換の選手の形で返って来なくても、色んなことがあり得ると思うのだ。中日には沖縄のオープン戦に始まってお世話になっている。社会ってそういう持ちつ持たれつじゃないかなぁ。