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両親が他界、遺されたのは「いらない実家」…現金の相続にこだわる妹が、実家売却を検討する兄に放った“驚きの一言”

『負動産地獄 その相続は重荷です』#1

2023/02/17

source : 文春新書

genre : ライフ, 社会

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家はいらない、金が欲しいの大合唱

 つまり、2人とも現預金を相続したい。親の家はいらない、ましてや地方にある親の実家(祖父母の家)なんてまっぴらごめん、というわけです。以前は相続トラブルの一番の原因は、不動産をどちらが相続するか、価値のある家を長男が相続するか、次男あるいは長女かで大揉めになったのだそうです。ところが最近は、家はいらない、金が欲しいの大合唱で、挙句の果てに大喧嘩という図式です。

 一見すると不動産、特に一軒家は相続税評価上、数百万円からせいぜい1000万円程度に減額されていますが、本来はもっと価値があるはず。つまり大きな評価減を受けているだけで実際の時価は高いのですから、これまでは誰もが家を欲しがったものでした。ところが、現代では相続人の誰しもが、家は嫌だ、と言い出したのです。何とも奇妙に聞こえますが、これが現実なのだそうです。

 ふたつめは、これはもう税理士業務の範疇外のような話ですが、相続後のトラブルです。現金争奪戦は結局、親の遺言書でもなければ互いの話し合いで解決するしかありません。解決しないとどうなるか。受け取りたくなかった親の家を子供たち全員が共有で相続したりしてしまいます。そして共有はきょうだいであってもトラブルのもと。相続した不動産をめぐって相続人同士の争いが勃発。相談を受ける事例が増えているのだそうです。

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3人きょうだいの「いらない実家の相続トラブル」

 これは実際に私に相談があったお客様の事例です。お客様は中堅企業のサラリーマン。数年前に父親が亡くなり、母親はすでに他界されていたので、親の財産をきょうだい3人で相続しました。その際、東京郊外にある彼らきょうだいが過ごした実家は、3人の共有で等分に受け継いだのだそうです。

 彼は3人きょうだいの真ん中。兄は海外赴任でもともと家には何の関心もなかった人。妹はすでに結婚して埼玉県に在住。この妹が相続の際にはもっとも現金にこだわったといいます。相続後も家の管理を誰かがしなければなりませんが、妹は自分の家のことで精いっぱいだからと、なんだかんだと理由をつけて全く実家には姿を現しません。仕方がないので、次男である彼が、休みの日を利用して数週間に一度、家に風を通し、庭の植栽を剪定したりして管理をしてきました。

 でも自分もすでに神奈川県内に家を確保している。兄は当分外国暮らしが続くとのこと。妹は相続時にも強硬に現金が欲しい、と言っていたことだし、なにやら不動産価格も上がっている。このチャンスに家を売ってしまおう。売ったお金をみんなで分ければよいではないかと考え、これを兄と妹に告げました。