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《原価率40%超》客が増えても儲からない…ラーメン、スイーツにまで手を出した「回転ずし」業界の構造問題

『外食を救うのは誰か』 #3

2023/02/20
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 店舗数を増やし、幅広い客を獲得しようという流れの中で、「寿司以外」のメニューを拡充した回転ずし業界。ところが調理工程がまったく異なるメニューが増加した結果、招いたのは利益を圧迫するほどの「コスト増」だった……。

 高コスト体質から抜け出せない回転ずし業界の現状を、日経ビジネス記者の鷲尾龍一氏の新刊『外食を救うのは誰か』より一部抜粋してお届けする。(全3回の3回目/#1#2を読む)

コロナ禍の「勝ち組」だったはずの回転ずしが苦しむ理由とは?(写真:アフロ)

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「原価率40%超」コスト増にあえぐ回転ずし業界

 マクドナルドほどではないものの、コロナ禍で健闘した業態の一つが回転ずしだ。「手軽にすしを食べたい」という目的来店を促す業態であり、郊外のロードサイド立地が中心だったことで「三密」を避けようとする消費者の取り込みに成功した。最大手の「スシロー」を運営するFOOD&LIFE COMPANIES(F&LC)は、2021年9月期に売上収益が2408億円となり、営業利益などとともに過去最高を記録した。

 回転ずしの起源は1958年に大阪府東大阪市で誕生した「元禄寿司」とされる。ビール工場の製造に使われていたベルトコンベヤーから着想して生まれた。その頃のすしは高級料理の代名詞。値段が「時価」のすし店を利用する消費者は限られていた。価格を抑え、明朗会計を持ち込んだ回転ずしを消費者は歓迎した。その後、シャリを握るロボットを活用して多店舗展開する大手チェーンが参入して成長していった。

 帝国データバンクの調査によると、2021年度の回転ずし市場(推定)は7400億円。2011年度の4636億円から10年間で1.6倍に成長した。回転ずし各社は都市部への出店を精力的に進めており、2022年2月時点の回転ずし店舗数はコロナ禍前の2019年度から150店増えて約2200店となった。店舗数をどんどん減らしているファミレスとは対照的だ。

 来店客の1世帯当たりの消費額も堅調だった。2015年度を100としたとき、2021年度は外食全体では68まで落ち込んだが、回転ずしは118と大幅に伸ばした。ハンバーガーの149に次ぐ好調ぶりだった。デザートやラーメンなど、すし以外のサイドメニューの充実がファミリー層に好評だったことが影響したようだ。 

寿司だけでなく「ラーメン」を売りにする回転ずしチェーンも。写真はイメージです(写真:アフロ)

 ただ、足元ではウクライナ危機の影響で水産物の仕入れコストが上昇し、稼ぐ力が弱まっている。もともと回転ずしは原価率が40%超と外食業界の中では高く、コスト増の影響を受けやすい。「くら寿司」を運営するくら寿司は2022年9月に業績予想を修正し、2022年10月期の営業損益が28億円の黒字から9億円の赤字になると明らかにした。

 いちよし経済研究所の鮫島誠一郎首席研究員は「回転ずしがわなにはまっている」と指摘する。店舗数を増やし、幅広い客を獲得しようという流れの中で、ラーメンなどすしとは調理工程がまったく異なるメニューが増加。それがコストの上昇を招いて利益を圧迫しているとの分析だ。鮫島氏は「メニューを増やすにしても、目的を明確にするか、時間帯でメニューを変更するなどやり方を変えた方がいい」と話す。