生涯で2人に1人がかかると言われる「がん」。でも、知っているようで、知らないことも多いのではないでしょうか。そこでジャーナリストの鳥集徹さんに、素朴な疑問をぶつけてみました。参考文献として信頼できるサイトのリンクも紹介しています。いざというときに備えて、知識を蓄えておきましょう。

A11 効果が証明されている免疫療法は一部です。

 がんについてインターネットで検索すると、免疫療法を実施する医療機関の宣伝がヒットすることがよくあります。本当に効果があるのか気になる人も多いことでしょう。

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 国立がん研究センターが運営するサイト「がん情報サービス」には、免疫療法について次のように書かれています。

「これまでの研究では、残念ながらほとんどの免疫療法では有効性(治療効果)が認められていません。現在、臨床での研究で効果が明らかにされている免疫療法は、『がん細胞が免疫にブレーキをかける』仕組みに働きかける免疫チェックポイント阻害剤などの一部の薬に限られ、治療効果が認められるがんの種類も今はまだ限られています」

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 人間の体には、がん細胞を「異物」と認識し、がん細胞を排除しようとする免疫の仕組みがあります。それを増強すれば、がんを治せるのではないかと期待され、1980年代ごろから様々な治療法が開発され、患者を対象とした臨床試験が行われてきました。

 代表的なものとして、患者の血液から採取したリンパ球を活性化し、患者の体に点滴で戻す「活性化リンパ球療法」や、がん細胞の目印(がん抗原)となる物質(ペプチド)を使って、免疫細胞ががん細胞を攻撃するよう仕向ける「がんペプチドワクチン療法」や「樹状細胞ワクチン療法」などがあります。

 しかし、これまでのところ一部を除いて、臨床試験で期待されたほどの成果は出せていません。そもそも、がんは免疫細胞の攻撃を免れたからこそ大きくなったわけで、原理的に免疫の力でがんを叩くのは簡単なことではないのです。

 そのため、日本では免疫チェックポイント阻害薬(悪性黒色腫、非小細胞肺がん等)、サイトカイン療法(腎がんのインターフェロンアルファ療法等)、BRM療法(膀胱がんのBCG療法等)など以外、保険適用は認められていません。

 にもかかわらず、免疫療法を保険の利かない自由診療で提供している医療機関がたくさんあります。点滴6回前後の1クールの治療だけで数百万円かかることが多く、がん専門医からは、「臨床試験で効果が証明されていないのに、高額な費用を患者から徴収して実施するのは倫理的に問題だ」と批判する声もあがっています。

 国が効果を認めた治療には、原則的に保険が適用されることになっています。免疫療法に限らず、保険が適用されていないということは「海のものとも山のものともわからない治療なのだ」と理解して正しいと思います。

 数百万円のお金を別のことに使ったほうが、よっぽど有意義だということもあり得るはずです。ですから、もしがんで免疫療法を受けたいと思った場合には、主治医によく相談をしてみてから考えてください。

【参考】「免疫療法 もっと詳しく知りたい方へ」(国立がん研究センターがん情報サービス)