生涯で2人に1人がかかると言われる「がん」。でも、知っているようで、知らないことも多いのではないでしょうか。そこでジャーナリストの鳥集徹さんに、素朴な疑問をぶつけてみました。いざというときに備えて、知識を蓄えておきましょう。

A9 「効く」の意味を知っておくことが大切です。

 がんになると多くの人が医師から抗がん剤治療を受けるように言われます。しかし、本や雑誌、ネットなどで「抗がん剤は効かない」「受けない方がいい」などと主張している医師もいます。そうした記事を目にして、迷う人も多いのではないでしょうか。

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 そのようなときにはまず、「何のために抗がん剤治療を受けるのか」を知っておく必要があると思います。抗がん剤治療の目的としては、大きく次の3つがあげられます。

(1)がんの完治をめざす。
(2)術後の再発を防ぐ。
(3)延命をめざす。

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(1)は主に、白血病や悪性リンパ腫など「血液がん」の場合です。血液がんは抗がん剤がよく効く場合が多いので、抗がん剤でがん細胞をゼロに近づけること(寛解)が目的になります。近年では抗がん剤の進歩で成績も向上しました。ですから、血液がんで抗がん剤治療を否定する医師はいないと思います。

 一方、肺がん、胃がん、大腸がん、乳がんなど、腫瘍(かたまり)をつくる一般的な「固形がん」は、通常は抗がん剤だけで完治させるのは困難です。そこで、手術によって腫瘍を取り除くとともに、体のどこかに残っているかもしれない目に見えないがん細胞を叩く目的で、つまり(2)の再発を予防するために使われます。多くは術後に行われますが、腫瘍を小さくする目的も含め、術前に行われることも増えました。また、放射線治療の効果を高めるために抗がん剤が併用されることもあります。

(3)の場合は、がんが進んで手術ができない場合です。がんを完全に治すのは難しいので、抗がん剤によって延命をめざすことになります。また、腫瘍を小さくして呼吸困難などの症状を緩和するために抗がん剤が使われることもあります。

抗がん剤の価値は「効く」「効かない」の二元論で考えるべからず

 したがって、抗がん剤治療を受けるかどうか迷った場合には、まず、何の目的で行うのかを理解したうえで、その目的をどれくらい達成できそうか、臨床試験のデータに基づいて主治医に説明してもらうことが大切でしょう。

 たとえば、(2)の場合は「100人受けて何人くらいの再発予防が期待できるのか」、(3)の場合は「平均して何ヵ月あるいは何年ぐらいの延命が期待できるのか」といったことが、聞くべき数字となるでしょう。そうした目的や数字を理解しておかないと、「治ると思って受けたのに、苦しいばかりで効かなかった」と不満が残ってしまうかもしれません。

 さらに、年齢や体力などに加えて、患者の価値観も考慮する必要があります。「わずかでも効果があるなら念のため受けたい」「どんなに苦しくても1日でも長く生きたい」という人がいる一方で、「それくらいの効果なら、副作用で苦しんでまで受けたくない」という人もいるでしょう。

 このように抗がん剤の価値は「効く」「効かない」の二元論で考えるべきものでなく、その目的や効果を適切に理解したうえで、受けるかどうか選択すべきものだと私は思います。