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大学入試の英語“4技能化”は問題だらけ 英文学者が「史上最悪」という理由

著者は語る 『史上最悪の英語政策』(阿部公彦 著)

『史上最悪の英語政策—ウソだらけの「4技能」看板』(阿部公彦 著)

「文科省の新英語政策は問題だらけ。この思いゆえに、いつもとはかなり違うスタンスの本になりました。どぎついタイトルも、実情を知らない世の中の人に伝えようという思いの表れですが、その甲斐あって、読者の反響も体感でいつもの100倍はあるような気がします(笑)」

 英文学者の阿部さんが“史上最悪”と指弾するのは、昨夏、新聞紙上に踊った「大学入試の英語が4技能化」という見出しが語る国の英語政策。受験に縁なき衆生にとっては関心の外だが、教育や入試に直に向き合う学生とそれを取り巻く家庭や学校に大混乱と不安をもたらしているという。

「4技能というキャッチコピーには実体がない。『これからは4技能!』と言われると目新しく聞こえるかもしれませんが、4技能とは、読む、書く、聞く、話すという区分けにすぎません。4つに分けるのはそもそもテスト業者の都合。センター試験との唯一の違いはスピーキング実技の有無で、それだけを根拠に大学入試の英語を民営化しようとしている。でも、このスピーキングテストが問題だらけなのです」

 世はグローバル時代。次代を担う若者が流暢な英語話者になるため、必死で勉強する試験項目にスピーキングを盛り込むのは、良いことのように思えるが……。

あべまさひこ/1966年神奈川県生まれ。ケンブリッジ大学博士課程修了。東京大学文学部准教授。専攻は英米文学。1998年「荒れ野に行く」で早稲田文学新人賞、2013年『文学を〈凝視する〉』でサントリー学芸賞。著書に『幼さという戦略』『名作をいじる』など。

「大学入試に相応しいスピーキング能力とはなにか。道案内程度なのか、文学や哲学の議論ができるレベルなのか。そもそもそんな技能を採点できるのか。きちんとした検証も検討もなく、民営化さえすれば英語力が向上する!という驚くべき理屈です。言葉を話し書くという行為は実に複雑です。ちょっと会話学校に通って英語ぺらぺらというのは幻想です。うまくしゃべれないのは、何より動機付けが足りず、学習時間が足りないから。試験制度など変えても、無駄な試験対策に走って肝心の学習がおろそかになるだけです」

 中高6年間も勉強したのに英語が話せない――お門違いながら根深い我々の英語コンプレックスにつけこむ霊感商法にも似た英語政策の姿が浮き彫りになる。

「導入に合わせ、受験産業が活況です。『対策しなくて大丈夫?』と学生や親の不安をあおり、対策塾に通える子と通えない子の間に格差も生まれるでしょう。民間が作る試験を活用していくそうですから、さて、この英語政策の変質で誰が潤うのか。そのあたりの追及は週刊文春にお任せしますが(笑)、『4技能』の耳触りのよさだけで拙速に進められる政策変更は、やっぱり説得力に乏しいと言わざるを得ません」

『史上最悪の英語政策』
2020年度の導入を目指し、突如として国が打ち上げた大学入試における英語4技能テストの導入。降って湧いた政策変更に、現場は混乱に陥っている。東大で英米文学を教える著者が、新政策の空虚さ、デメリットについて鋭く迫る。日本人に染み付いた英語幻想にも自ずとメスが入る、英語に悩む全国民必読の1冊だ。

史上最悪の英語政策—ウソだらけの「4技能」看板

阿部公彦(著)

ひつじ書房
2017年12月25日 発売

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