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「選手が勝手に生えてきた」は昔の話…復活した西武の「3軍」は新たな主力を生み出せるか

文春野球コラム ペナントレース2023

2023/06/10
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若手が伸びるために大事なこと

 実際、現場では何が行われているのか。3軍練習を訪ねるとノックを打つ鬼崎裕司3軍守備コーチの姿があった。今年で40歳を迎えたが、大きな声で積極的に選手たちとコミュニケーションを取っている姿は現役時代と変わりない。

「自分が現役時代に感じたのは、結局は選手自身が自分で試行錯誤して、レベルアップするためにやるべきことを見つけて、集中していかないと成長しないんですよね。こちらから一方的に教えてしまうことはできますが、それだと選手たちの身についていかない。だから、選手と対話しながら、どうしたらうまくできるようになれるのかを自分で見つけられるようにアプローチしています」

 育成過程にある選手たちの多くは、自分がどうしたら上手くなっていけるのか、その方法論を持っているわけではない。そこで鬼崎コーチは守備練習時、選手たちとこんなやりとりをしていた。

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鬼崎「どうしてそうなった?」
選手「こうなっちゃいました!」(仕草で見せる)
鬼崎「言葉にしてー!」
選手「(考えて)肘が伸びていました!」
鬼崎「じゃあ、どうしたらいい?」
選手「(ボールに)もっと低く入ります!」

 選手がプレーがうまくいかなかった要因を言語化することで、正しい動きを理解し再現性を高める。対話することで考える力、自らのプレーと向き合えるように成長してほしい。そんな意図が感じられた。

鬼崎コーチと選手たち ©岩国誠

 実際に3軍戦を観にいくと、チーム全体として故障者が多いこともあって、選手のやりくりは大変そうな印象を受けた。それでも高卒ルーキーの古川雄大や野田海人らが、スタメンで複数打席をもらって結果を出している。

 特に野田は5月31日のBCリーグ・群馬戦で2番・捕手で先発出場し、3安打4打点の大活躍。「(阪神の)近本さんのバッティングを見たら、バットを振り回していなかったので」と、コンタクトを意識した打撃で好結果につなげたと話してくれたが、3軍戦がなかったら、野田自身が気づいたことを実戦で試す機会はなかなか巡ってこなかったかもしれない。

新しいライオンズへ

 選手たちの化学反応は少しだけ数字に現れている。例年チーム成績が思わしくないライオンズ2軍は現在、27勝18敗2分と勝ち越しているのだ。3軍からの突き上げが2軍でアピールを続ける選手たちを刺激していることは無関係ではないだろう。

 ライオンズで現役を終えた故・野村克也さんがヤクルトの監督に就任する際、“1年目には種を蒔き、2年目には水をやり、3年目には花をさかせましょう”と話したというが、今年のライオンズはまさにその1年目にあたる。

 これまで育成目的の試合は、公開しない場合が多かったが、今年は今のところ全て有観客試合となっている。そこにはファンの目に触れることでの緊張感とモチベーションアップもさることながら、3軍から這い上がろうと奮闘する選手たちの姿を直接応援し、その背中を押して欲しい。そんな思いも込められているように感じる。

 確かに今、1軍は苦しい戦いが続いている。それでもライオンズという組織は、選手個々はより良い明日になるよう、悩み、試しながら、新しいライオンズを作っていこうと歩みを進めている。

 何事もやってみなければわからない。野村さんの言葉のように、3年で結果が出るかはわからないが、今もチームを支える栗山巧&中村剛也が健在のうちに、足元をもう一度見つめ直すことは、決してマイナスにはならないはずだ。

 かつてのように、ライオンズのファームが潤いを取り戻し、血気盛んな若獅子たちの咆哮が狭山丘陵に響き渡る日を楽しみに待ちたい。

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