ここ数年で、ライオンズのファーム施設は大きく生まれ変わった。室内練習場の「ライオンズトレーニングセンター」と、そこに直結する「若獅子寮」、そしてファームが試合を行う「CAR3219フィールド」。かつて、哀愁漂う風情を醸し出していたファームの施設が、次々と建て替えられていく様を見て、ライオンズの歴史が明るいものになるように感じたファンも少なくはないだろう。
しかし、そこから昔のようにトップ選手へとのし上がっていく若獅子がなかなか出てこない。
今季は、昨年まで打線の中軸を務めた森友哉がFAでオリックスへ移籍。さらに主砲・山川穂高もグラウンド外のトラブルもあって、戦線復帰がいつになるのか皆目見当がつかない。その山川の穴を埋めていた中村剛也も、5月末に右脇腹の張りで離脱。WBCでの右手小指骨折からキャプテン・源田壮亮が戻ったものの、経験の浅い若獅子たちが連日スタメンに名を連ねる状況で、得点力不足は深刻だ。
数年前のライオンズなら、こうした主力が抜けた時こそ、新たな若獅子が咆哮をあげたものだ。現監督の松井稼頭央がメジャーへ移籍したときには中島裕之(現巨人)、その中島が海を渡れば、今度は浅村栄斗(現楽天)、さらにその浅村がいなくなったら外崎修汰……といった具合にだ。
それもあって「ライオンズは野手の育成がうまい」と思っている他球団ファンの方も少なからずいるのではないか。しかし、2019年オフに不動のリードオフマン・秋山翔吾がメジャーへ移籍して以降、その穴を埋めるような若獅子の咆哮は未だこの耳には届いていない。
シーズン途中に入団し、いきなり本塁打王を獲得したエルネスト・メヒアのような外国人助っ人を獲得できるならば最高だが、そんなことは毎回続くものではない。ファームでユニフォームを真っ黒にしながら這い上がり、1軍でレギュラーを掴み取る若獅子の姿を渇望して久しい。
かつては「選手が勝手に生えてきた」と形容されるほどだったライオンズのファーム。そんな「育成のライオンズ」復活を目指し、今年から新たな試みがスタートした。それが「3軍制」の導入だ。
“自然消滅”から1年後の復活
ソフトバンクが2011年から導入した3軍制。その後、巨人と広島が続いているが、実はライオンズも2019年に一度は3軍を立ち上げている。しかし去年は担当コーチを置かず“自然消滅”となっていた。それがなぜ1年で復活することになったのか。
「去年も3軍にあたる選手の区分けはしていましたが、“ファーム”という形で運用していました。その中で、若い選手たちを育成目的で2軍公式戦に出場させるとなると、今まさに1軍入りをかけている選手や、再調整の選手たちのアピールする機会を奪ってしまうことになる。それは難しいのではないかと現場から声が上がったんです。そこで思い切って『じゃあ、3軍を単独で編成しよう』ということになりました」
そう話してくれたのは、秋元宏作ファーム・育成ディレクター(以下秋元FD)。ライオンズ育成部門の責任者だ。選手育成において基礎的な技術練習や体力強化は必須だが、その成果は実戦を行わなければ見えてこないし、実戦からでしか浮き彫りにならない課題もある。そこで、選手育成を目的とした3軍を新たに立ち上げ、今までは練習試合としていた社会人や独立リーグとの試合を3軍戦として運用していくことを決めた。
育成メインの3軍を立ち上げたことで、2軍は『1軍により近い選手たちが、上を目指すためにアピールする場所』という役割が明確になった。そして独自に2軍の選手枠を28名と限定。1軍へ挑戦できる枠を制限することで、選手たちの競争意識を刺激している。
「やはり、全選手が1軍で活躍するためにプロ入りしてくると思いますが、レギュラーを掴むためには、競争に勝ち抜いていかなければいけない。今の選手たちは昔と違って、露骨にライバル意識を出すようなことはあまりないですが、競争心やライバル心は絶対に必要になってくるので、早い段階でそこを経験して、そういうものが選手たちから見えてくるようになっていけばと思っています」
2軍公式戦で結果を残さなければ1軍への昇格や、育成選手ならば支配下登録のチャンスは得られない。3軍選手はアピールして2軍に這い上がろうと努力を重ね、2軍選手は3軍選手たちに負けないよう日々精進しながら、さらに上を目指す。
ともに成長する仲間でありながらも、限りある挑戦権を掴むためのライバル関係が適度な緊張感を与え、日々の練習や試合での集中力を生み、個々のレベルアップへとつながっていく。秋元FDは3軍を作ることで、そうした選手たち自らが起こす化学反応を期待しているのだ。
「『まずはやってみよう』というところで始めたものですから、いろいろと課題はあります。特にコーチたちには苦労をかけていますが、トライアンドエラーを繰り返しながら、出した方針の中で頑張ってもらっていますね」