働き方改革、裁量労働制、サービス残業、労災や過労死、やりがい搾取、ブラック企業……。さまざまな労働問題を、中立的な立場から解決するのが、「社会保険労務士」(通称:社労士)だ。その社労士が主人公のお仕事小説『ひよっこ社労士のヒナコ』が八重洲ブックセンターの文芸担当が選ぶ文芸書賞「yaesu bungei choice」を受賞。受賞を記念して、著者の水生大海さんと社労士の佐藤広一さんによるトークイベントが行なわれ、職場で悩む人からの質問に応えた。

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家業の町工場が倒産、再起をかけて社労士に

『ひよっこ社労士のヒナコ』(水生大海 著)
『ひよっこ社労士のヒナコ』(水生大海 著)

佐藤広一 今回、主人公の朝倉雛子というすごく素敵なキャラクターの社労士をつくっていただいて、ありがとうございます。ヒナコのようなスタッフがいたら、心強いですね。元気があって、明るくて、やる気に満ちあふれていて。

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水生大海 こちらこそ、ありがとうございます。でも、ヒナコのようにお節介すぎると……。

佐藤 確かにやりすぎで空まわりすることもありますが、こういう人はすごく成長します。ぼくの事務所にも彼女のようなスタッフがいて、期待しているんです。ただ、実際には社労士がヒナコのように社員ひとりひとりと熱心に接することはあまりありません。ぼくらは会社と契約しているので、人事部や総務部、あるいは経営陣と話をして「こういう会社にしていきましょう」とアドバイスをしていきます。社労士は一般的にはあまりなじみのない職業かもしれません。なぜ水生さんは主人公に選んだのでしょうか。

水生大海さん ©文藝春秋

水生 はい。私自身、作家デビューする前は、派遣社員として総務関係の仕事をしていたので、社労士の資格を持っている方や目指している方が近くにいました。また、労働問題はみんな関わりがあるのに、あまり知らないことが多く、せっかくだからテーマにして掘り下げようと思ったんです。

佐藤 なるほど、身近に社労士がいたんですね。私が社労士を目指したのは二十数年前ですが、当時は生命保険や自動車保険を扱う保険屋さんなのかなというイメージでした。 当時、父親が埼玉県川越市でバネをつくる町工場を営んでいましたが、バブルがはじけて、業績が悪化した。そこでぼくは勤めていた商社を退職して、父の会社に入ったんです。しかし、20代前半の若造が力になれるわけはなく、町工場はつぶれてしまった。

 それから職を探しました。どうやら会社勤めには向いていないし、お金がなくても開業できる仕事がよいだろうと、士業を考えました。ところが、弁護士は司法試験が難しい。ぼくは数字が苦手なので、税理士はあわない。それで、社労士にかけてみようと決意して社労士事務所に飛び込み、丁稚奉公を10年やって、2000年に独立開業しました。

©iStock.com

水生 独立当初は、どう営業したんですか。

佐藤 社労士はごまんといるので、名刺一枚で「社労士です」と言っても効果はないと思っていました。独立したら、最初に本を書こうと決めていたんです。本を出したことで、取材やセミナーの依頼を受けましたし、一番最初のお客さまは出版社を通じてご依頼がありました。 本を通じてお客様とつながっていったんです。