高速道路の逆走や、アクセルとブレーキの踏み間違いなど、高齢ドライバーによる交通事故の多発を背景に、「認知症患者の運転免許返納」が社会問題となっている。
一方で、認知症とよく似た症状を引き起こす脳の病気がある。「てんかん」だ。中でも、50歳以上の年配の人に起きる「高齢者てんかん」は、その症状が認知症と似ていることから医療現場でも混同されているケースがあるという。
認知症と症状は似ていても、「高齢者てんかん」は治療によって症状を起こさないようにできるという。まずは病気を見つけることが重要なのだが……。
事故を起こしたドライバーに「てんかん」の持病
2011年、栃木県鹿沼市でクレーン車が暴走し、登校中の小学生6人が犠牲となった。翌12年には京都市祇園で軽ワゴン車が暴走事故を起こし、運転していた男を含む8人が死亡、12人が重軽傷を負った。さらに15年には、東京の池袋駅東口で、やはり歩行者を巻き込む暴走事故が発生し、1人が死亡、4人が重軽傷を負っている。
これらの事故を記憶している人は多いと思うが、三つの事故に共通するのは、事故を起こしたドライバーに「てんかん」の持病があったということだ。
2014年に施行された「自動車運転死傷行為処罰法」では、てんかんなどの持病を持つ者が自動車の運転に支障を及ぼす恐れのある状態で運転し、死傷事故を起こした時には処罰の対象となることが明文化された。
たしかに、自分がてんかんであることを知りながら治療を受けず、あるいは薬を服用せずに事故を起こされたのではたまらない。
ただ、てんかんの多くは、治療薬を服用することで発作そのものを防ぐことができるという。
てんかんは明確に“脳の病気”として分類されている
TMGあさか医療センター(埼玉県朝霞市)脳神経外科てんかんセンター長の久保田有一医師が解説する。
「てんかんは、昔は精神疾患と考えられてきたが、現在は明確に“脳の病気”として分類されている。大脳で何らかの要因から神経細胞が異常な興奮をして、誤った電気信号を出すことで発作を起こす病気。最初に神経細胞が興奮する原因は解明されていないが、子供の頃に発症し、成長するにしたがって自然に治っていくことが多い」
たとえ成人した後に病気が残ったとしても、当人がてんかんであることを知っていれば、先に挙げたような事故は防げる。鹿沼と京都のドライバーは医師から運転を控えるように言われていたし、鹿沼と池袋のドライバーは処方されていた薬を飲んでいなかった。しかも池袋の事故を起こした男は、現役の医師だった。医師が自分の病気を知りつつ、薬を飲まずに車を運転して死傷事故を起こしたのだから言葉もない。
こうした事故が起きると、てんかん患者に向けられる世間の目は冷たくなる。しかし、実態は病気が悪いのではなく、病気を隠して、あるいは適切な治療を受けずに車を運転する「個人の問題」というべきだろう。