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「私は富士山を見たことがありません」元中日・英智が明かすプロフェッショナルの「Myスタイル」

文春野球コラム クライマックスシリーズ2023

2023/10/19
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移動試合なのに移動だったことを忘れさせる移動スタイル

 続いて移動試合の動きです。

 遠征先でのナイター試合終了後は、部屋に戻って約1時間以内に野球道具の入った鞄、着替えなどの入ったスーツケース、そして試合で使用したユニフォーム類の洗濯物を全て部屋の扉の前に出します。すると、それらの荷物をホテルの方がピックアップしてトラックまで運んでくれます(二軍の場合は各自で運びます)。

 シャワーを浴びて食事を済ませたら、あとは次の日の移動試合に備えて寝るだけです。しかし、体内時計はナイター試合に設定したままなので、早めにベッドに入ったとしても、なかなか寝付けません。就寝時間はだいたい25時ぐらいになります。

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 寝れなくて焦るとさらに寝れなくなるし、「寝坊したらどうしよう」と考えてしまったり……。時には「あっ、ヤバい! テレビをつけたら既に試合が始まってる!」なんて夢まで見たりするので熟睡できず、浅い眠りで目覚ましのアラームより早く目が覚めてしまう始末です。

 対戦相手がセ・リーグの場合、宿泊するホテルからは各自移動です。マネージャーからもらう新幹線のチケットは、ホテルでしっかり寝てから直接球場に向かう時間に設定してあります。

 しかし、私が経験と工夫を重ね辿り着いたMyスタイルは……。“なるべく早く新幹線に乗り、一度家に戻って仮眠を取る”でした。おそらく他の多くの選手もそうしていたと思います。なぜなら、あのタイロン・ウッズですらそうしていたと聞いたからです。

 万が一、新幹線で寝過ごすなどの道中のトラブル回避から考えても、早く名古屋に向かう習慣になっていたので、乗る新幹線の時刻は早朝の始発近辺でした。

 空はまだ薄暗く、ひっそりとした新幹線の車両に静かに乗り込んでみると、申し合わせをしていないにも関わらず、たいがい近くに選手やコーチが座っています。そして「名古屋駅で寝てたら頼みますね!」みたいなアイコンタクトの挨拶をして、お互い気にかけあいながら移動していくのです。

 私は「ホテル+新幹線+家で仮眠=睡眠」のトータルでコンディションを整えていました。

 最初は体のコンディション調整を重視して生まれたスタイルでしたが、次第に脳内にも変化が生まれ、家で仮眠してから球場に行くと「今日は移動試合だったっけ?」と今日移動してきたことを忘れてしまう錯覚が起きてくれて、いつも通りの気分で試合に臨めるという発見もありました。

 中部地方に陣を取っている中日ドラゴンズは、西に向かうにしても東に向かうにしても、移動に関して恵まれた環境だと思っています。

 そして、1年を通してプロ野球の過密なスケジュールを戦い抜くには、JR西日本、JR東海、JR東日本の皆様の存在抜きには語れません。改めて感謝致します。

 長期に渡って費やしてきた移動時間。どう上手く使いこなすかもシーズンを戦う上では重要なポイントだと思います。プロ野球生活での「富士山が見られない新幹線の旅」は私にとって格別素敵な旅でありました。

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