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1177日ぶりの復活勝利を遂げた中日・梅津晃大から学ぶ「自分で自分をコーチする」ことの大切さ

文春野球コラム クライマックスシリーズ2023

2023/10/21
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「梅津、地道に頑張ってましたよ」

 ちょうど1年前のことだ。DeNAへトレード移籍が決まった京田陽太が、私を経由して梅津に伝言を残した。

「球場入り朝一番乗りは梅津に譲る、って伝えておいてください。いつも僕か(梅津の)どちらかが朝一で来てたんですよ。梅津、地道に頑張っていましたよ」

 昨年3月のトミー・ジョン手術以降、右腕は夜9時か10時には就寝し、朝5時に起床。7時には球場入りしてトレーニングに励んでいた。多い時でリハビリメニューは50種類に上る。約2時間以上かかる地道な鍛錬。キャッチボールや全体メニューに参加しても、朝のトレーニングなど入念な準備をして練習に入るというルーティンは崩すことなく、体と向き合っていた。

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 睡眠をたっぷりとり、栄養にも配慮。特に脂質に注目して「PFCバランス」を大事にした。今では特別な調味料をつけず、なるべく素材のまま口にする。刺身も醤油をつけず、そのままパクリ。昔はお酒も飲めたが、最近ではめっきり減った、というか弱くなったらしい。最近ではお風呂にマグネシウムを入れて、リラックスタイムを過ごしている。

 自身の課題も、ひとつずつクリアした。ウエートでは「この体にしては瞬発力とパワーがない」と、上げる回数を何セットと決めるより、とにかく重いものを2回でいいから上げ、その後、軽めの負荷でスピードを求めるトレーニングに変えた。

 投球時も、より大きなパワーを使うイメージにするため、投球前にはメディシンボールやプライオボールを使って、感覚を研ぎ澄ませている。

 投球では、胸郭を広げて生かすことを意識した。今までは「結局、腕を使って投げていた」というが、下半身をしっかり鍛えて操り、胸郭に神経をめぐらすことで自然とねじれ、爆発的なパワーを生み出せるようになった。身体の仕組みを理解してから見違えるように投球の質も上がったといい、今では投球フォームが「手術前と全く違う」と断言する。今季はハマスタでプロ入り後、最速となる155キロも計測した。

 梅津が、新人の時から大事にする「大谷翔平マインド」が垣間見えたのも嬉しかった。大谷は梅津にとって憧れの存在だ。復帰登板で使っていたグラブには、投手用によくみられる指カバーがなかった。

「サイズは少し大きくなりました。色も調子が良かった1年目に戻しました。指カバーがない? 大谷翔平さんも『無駄なものを取捨選択』するじゃないですか。(大谷が)新しいメーカーのグラブになり、指を出すタイプにしていたので真似してみようと。投球を左右するような深い意味はない(笑)。相変わらずマニアックなところ見ていますね」

 と、笑い飛ばされてしまった。本当に深い意味はなかったのだと思う。でも、右腕を1年目から見ている私にとって、大谷翔平というキーワードが出たことに、変わらない梅津の芯を感じた。

今年の2月、松山投手と練習中の風景

「“自分が自分のコーチ”です」

 秋季練習が始まったばかりだが、今オフのテーマは「原点回帰」。かつて、ソフトバンクから米大リーグ・メッツへ移籍し大活躍した千賀滉大を追って、宮古島の自主トレに参加した。昨オフは三重のみどりクリニックにも通い、東京、大阪とリハビリも兼ねて全国を飛び回った。プロ入り後の4年間でたくさんの知識を得たからこそ、オフは基本的に1人で自主トレを行う方針だ。

「リハビリ中は、自分でメニューを決めていました。結果的に、体も大きくなって、スピードも上がって投球フォームにも手応えはある。“自分が自分のコーチ”です。

 誰かのところに行かないと新しいことは取り入れられないかもしれないけど、自分で決めた目標へ0からコツコツ作り上げていく。それが好きなおかげで、地味だったリハビリも乗り越えていけた。まわりから『クソ真面目』って言われるし、自分でもそう思いますけど、その性格が今の自分を作ってくれている」

 勝手に梅津の野球観、人生観と筆者自身を照らし合わせるのは失礼だが、新聞社を退職し、新しいことに挑戦する今の私にとって、梅津の言葉には感銘し、深いところで共感できた。

 立浪監督から直々に「来年は中8日、中10日で1年間ローテーションを守ってほしい」と期待されている。

「来年は1年間、1軍で先発して結果を出し、チームに貢献したい」

 ユニホームが小さく見えるほど、雄大な背中の背番号18。伸び代はいつだって無限大。中日・梅津晃大が示す未来はどんな逆境だってわくわくする。

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