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あの日がなければ…ファイターズファンが秋の夜に振り返る6.24のこと

文春野球コラム クライマックスシリーズ2023

2023/10/21
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あの夏の日がなかったら楽しい日々が続いたかもしれないのに

 中でも6月はエモい。あの日のカレンダーは西村天裕だったのかーと振り返るのは6月24日土曜日だ。

 前日、交流戦明けの初戦を僕は文春ファイターズ・えのきどいちろう監督と一緒にZOZOマリンスタジアムで観戦。加藤が5勝目、清宮・万波がタイムリー、野村がダメ押しの一発という最高の内容で5連勝。借金を3に減らしていた。

 翌日、6連勝をかけたゲームはハンソン、江越、石井と打率1割台のバッターがタイムリーを放って4-1とリードするが先発・上沢がこれを守り切れず6回裏、ポランコの一発で4対4。そこで出てきたのが背番号40の西村だ。マリーンズの球団記録を更新する「開幕から21試合連続無失点」を達成。ファイターズ時代は札幌でも鎌ヶ谷でも、勝ち試合でも負け試合でも投げていたが、移籍から3カ月で絶対的なセットアッパーに変貌していた。

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 ファイターズも4月に2試合対戦して各1イニングをパーフェクトに抑えられている。

 で、この日の7回表、西村はハンソンをキャッチャーフライ、江越を空振り三振に取ったあと、石井を歩かせた。次の松本剛はショートゴロ。これを友杉篤輝がファンブルして二死一、二塁。迎えたのは三番・清宮。西村とは同期入団で、鎌ヶ谷の新人合同自主トレの時から親しげに談笑していた姿を憶えている。違うユニフォームになって初の対決は初球をレフトフライ。西村が勝った。

 同点のまま迎えた9回表、マウンドに上がった益田直也から八番上川畑が二塁打。江越のバントは田村龍弘のフィルダースチョイスを誘って無死一、三塁。ここで打席は石井。

 開幕戦でスタメン三番に座ったが打率1割にも満たず、4月10日に登録抹消。6月中旬に一軍復帰した後、調子を上げて前日は2安打1打点。この日も2打席目にタイムリーを放っていた。

 その5打席目、初球のストレートはボール。一塁走者江越が盗塁を決めて無死二、三塁。打ってもゲッツーになる可能性は低い。6連勝が見えた、と思った。

 2-1からの4球目。石井がさっとバントの構えをとるが大きく外へはずされ空振り。スクイズ失敗で三塁走者・上川畑はアウト。

 二塁の江越が進塁して一死三塁。

 カウント2-2となって普通ならスリーバントスクイズはない。ところが、3-2からの6球目、石井がバントの構え、大きく外にはずされた球に飛びつくが当てることができずスクイズ失敗。三振ゲッツー。

6月24日のロッテ戦、スリーバントスクイズに失敗した石井一成 ©時事通信社

 このとき田村とグラブタッチを交わした益田の笑顔が忘れられない。いかにも痛快。してやったり。例えるなら、「スティング」のポール・ニューマンとロバート・レッドフォード。

「新庄は奇策が好きだからなあ」と読まれたら奇策じゃない。カモメの前のカモになってしまった新庄監督。

 テレビで観戦していた僕もがっかりしてソファーに倒れこんだ。その裏、5月まで絶好調だった宮西がサヨナラ犠牲フライを打たれて連勝は止まった。

 7月にファイターズは悪夢のような13連敗を記録。そのうち1点差での7連敗があるんだけど、僕はあの6月24日から連敗が始まったような錯覚がある。石井は7月にふたたび二軍へ落ちてそのままシーズンを終えた。もし、あのときスクイズじゃなかったら。たとえ外野フライでも内野ゴロでも、打点を挙げて6連勝していたら……。

 あの夏の日がなかったら楽しい日々が続いたかもしれないのに、と思う秋なのである。

追記:10月20日、CSファイナル第3戦で今シーズン初の負け投手になってしまった西村天裕だが、SNSのマリーンズファンから「西村で負けたら仕方ない」の声多数。がんばれ、西村。

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