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キレイで円満な離婚=FA移籍を実現するために…西武ライオンズ各選手に意識していただきたいファンへの気遣い

文春野球コラム クライマックスシリーズ2023

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「俺たちもう7年目だろ、そろそろ一度この関係を見直してみないか……」「俺にも、自由に生きる権利があると思う……」

 って、7年前にお見合い結婚したお婿さんから言われたら、どう思われますでしょうか。「あ、コイツ、私を捨てて逃げる気だな」とピーン! カチーン!と来るのではないでしょうか。もちろんそれぞれの人生ですので、相手を縄で縛ることはできません。最初から愛のない婚姻関係だったのかもしれませんので、なすすべなく離婚に至るケースもあるでしょう。しかし、何事も「円満」であることは重要です。円満退社、円満離婚、円満FA脱出。同じ別れるのなら円満に別れたい。民事訴訟の可能性を残したままではなく、キレイに別れたい。

 この時期、我が埼玉西武ライオンズはお別れの準備で忙しくなります。今年は誰が出て行くのか。もはや泣いてすがって引き留める気力もないのですが、せめてキレイに別れたいとは思います。別れ際がこじれると、こちらもメンタルヘルスを損ねて、「よし! アイツは今年も優勝してないな!」とドス黒い喜びに震えたり、「あー! アイツのチームは若手が委縮せず優勝してる! チクショー!」と恨み節が倍増したり、どんどん闇が深まってしまいますので。

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 球団と選手との間だけの話で言えばFA移籍というのは単なる「転職活動」に過ぎないので気づいてもらえない部分があるのかもしれませんが、ファンと選手との間ではこれは「離婚協議」です。しかも、球団という「家」から離れることができない箱入り娘に向かって一方的に別れを切り出すタイプの離婚であり、闇を抱くなと言われても無理な話です。そこは出て行く側にも「気遣い」というものが必要だと僕は思います。キレイに別れられなければ週刊誌に関係を暴露されたり、捨てた相手が自宅の前で暴れてたりすることもあるのが人情。自分自身のためにもキレイに円満に別れること、ぜひ意識していただきたいものです。

10月3日のロッテ戦、100ホールドを達成した平井克典 ©時事通信社

大事なのは「愛していながら別れなければならないストーリー」を取り繕うこと。

 もともと別れる気がないのであれば、FA権を行使しないにせよ宣言残留するにせよ、何も取り繕う必要などありません。そこには「婚姻関係継続の意思=愛」があるからです。問題は、出て行くと決めている、あるいはその方向で検討しているときです。その場合、「離婚」という結論を念頭に、「今もこれからも君を愛している」という正反対の話を取り繕う必要があります。その気遣いを怠れば、可愛さ余って憎さ百倍のモンスターが誕生します。愛し合いながらも別れざるを得なかった悲恋に仕立て上げ、「愛しているからこそ、私たちは別れないといけないんだ」と相手に思わせることが大事。そのためにはどれだけ心を砕いても十分ということはありません。だって、ウソなんですから。出て行く時点で愛より大事なものはあるんですから。ウソを取り繕ってホントっぽく見せようというんですから、簡単なことではないのです。

 ひとつ、サンプルを見てみましょう。以下は、とある選手が離婚協議を開始……つまりFA宣言をしたときのコメントです。ここには定番の問題点が多数盛り込まれています。

【とある選手のコメント例】

「このたびFA権を行使しました。

 ライオンズに入団して以来、ここまで育てていただき、そのおかげで手にした権利ですので、ライオンズには本当に感謝しています。

 シーズン中に権利を取得しましたが、権利のことを意識し始めたのはシーズンが終わってからです。

 それまでは、リーグ優勝もかかっていましたし、また何とかCSを勝ち上がりたいということで頭がいっぱいでした。

 球団の方と話をさせていただくなかで、自分のことを必要としてくれているという思いを強く感じました。

 その一方で、自分に興味を持ってくれる球団があれば、その話も聞いてみたいと思っています。 今後、自分なりに頭の中を整理して、将来について考えるつもりです。 まずは、選んでいただいた侍ジャパンで、チームに貢献できるよう集中して臨みたいです」

 まず冒頭の段落、自身が宣言しなければ絶対に始まることがない離婚協議を、いざいざ始めようとするにしては言い方にデリカシーがなさ過ぎます。「行使」「手にした権利」という言葉選びには、強い意志と主張があります。感謝のオブラートで包んでいても、その単語が入っている時点で「あ、私を捨てる気だな」というのがビンビン伝わってきます。別れ話を切り出す第一声に「弁護士」と「親権」って単語が入ってたら、どれだけ「ありがとう」でくるんでも円満な別れにはならないのと同じこと。「ライオンズのおかげで」という表現も、事実その通りではあるのですが、「私はあなたに捨てられるために尽くしたんじゃない!」という反発を生むでしょう。たとえ「この権利で俺はもう自由だー!」と腹の底では思っていたとしても、もっと慎重に、できるだけ申し訳なさそうに切り出してくれなければ、ここで心の扉はシャットダウンです。

 つづいての段落、コチラもまったくよろしくない。「FAについては考えてませんでしたノープランです」というオトボケですが、そんなわけありますかと。捨てられる側は、どうせ毎年毎年壁にナイフで傷でもつけて一軍登録日数を数えていたんだろうと睨んでいるわけです。そうでなくても新聞やネットに権利取得予定日が載っていたり、権利取得の前年あたりから記者にいろいろ聞かれたり、球団からの複数年契約の申し出を固辞していたりするのに、それを「考えてませんでした」のオトボケでやり過ごせるはずがないでしょう。ホントに何も考えていないのに、「あ、俺、権利取得したんだ」「じゃ、離婚でもするか」と思い立つはずがないのです。どんな吉日かと。

 もちろん「不倫してました(事前交渉)」とか「浮気してました(意中の移籍先アリ)」なんて言えるわけがありませんので、できるだけ触れてほしくない、答えたくないという事情はわかりますが、ひとつウソがバレればすべてがウソに見えてきます。「ありがとう」も「必要としてくれていると思った」も全部ウソに見えてきます。FA権や移籍のことについて、しっかり考えてきたんだという誠実な姿勢は見せましょう。むしろ、昨日・今日の思いつきではないという真剣さが、これからの決断にも説得力を持たせます。

 その観点で言えば、最後の段落にある「興味を持ってくれる球団があれば、その話も聞いてみたい」は最悪です。これでは正妻と不倫相手を五分の天秤に掛けているがごとくですし、「興味」で「話を聞いた」程度でこれまでの関係が上回られる余地が十分にあるんかーいという呆れを生みます。「興味を持ってくれた相手と話をして」「将来を考える」なんてマッチングアプリでもあり得ないスピード感でしょう。バチェラー気分かと。「話を聞いてみたい」なんて受け身な態度で乗り換えられる程度の将来なのかって思ったら、「私との婚姻関係って何だったの?」というフツフツとした憤りもたぎるというもの。

 最後の結びも、捨てられる立場で聞けば、地味に神経を逆撫でされる感じがします。だって、今、侍ジャパンの話なんてしてないから。「もっと私に言うことはないの? ねぇ、ちゃんと話そ?」とすがっているときに、言いたいことだけ言い放った相手が「じゃ、俺は仕事があるから! あとは仕事に集中!」って去っていった感じでしょう。「私」への感謝も、謝罪も、言い訳も、愛してるも、何もない。これでは円満離婚も円満復縁もありませんし、「もしかして取引先で次の女と会うのか?」くらいの邪推も生むでしょう。どんな話にも共通しますが、話の最初と最後には「ありがとう」か「ごめんなさい」を入れておきましょう。最初と最後だけイイ感じになっていれば、途中は大体忘れるのです。キレイで円満な別れ話を目指すなら最初と最後は「ありがとう」で決まり。言うのはタダなんですから、せめてそれぐらいはしなさいと。

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